日本の金融制度は「老いるショック」に無策だ 今の「金融ジェロントロジー」の議論ではダメ

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次に、成年後見制度は毎月2~5万円程度の報酬を支払う必要がある上、当初決めた月々の最低限の金額しか引き出せなくなる。米国のように「被後見人の最善の利益を追求する必要がある」という原則はなく、とにかく減らさないことが後見人の使命となる。そのため、例えば、ホームに入りたいからといって財産を売却することも簡単にできない。

また、最近若干の柔軟性が容認されたものの、原則として後見人を途中で変更することはできない。交代のリスクもない固定払いなら、後見人を請け負った多忙な法律家が、高齢者の利益に向けて努力するとは、考えにくい。

比較的コストも安くマシな制度は家族信託であるが、これにも大きな制約がある。家族信託なら遊休不動産の開発や住宅の改築など、成年後見制度では実行できない資産の組み換えもできる。しかし、信託の受託者でも、必ずしも、既存の預金口座をそのまま信託し自由に引き出せるとは限らないし、不動産を独自の判断で売却することもできない。そして何よりも働き盛りの子供の事務的・時間的負担が大きい。

はやりの「ジェロントロジー」はのんきすぎる

近年、こうした金融における高齢化問題を考える「金融ジェロントロジー」という研究や活動が広まりつつある。しかし今のところ、これらの活動は、高齢者に対する説明の仕方の研究や、高齢者の担当者向けに認定資格を設けるなどに留まっており、抜本的な解決には遠い印象だ。

金融高齢化問題は世界的な問題である。特に日本では高齢化が早いことに加え、口座数が多いことや印鑑・通帳といった管理の手間も煩雑であることから、いっそう深刻だ。日本独自の斬新な法制度の整備が必要だろう。

例えば、多数にまたがる金融機関の口座を1つの銀行の窓口で、1つの金融機関の口座に簡易にまとめられるようにしたり、認知に問題が生じた場合には、金融資産の処分を簡単にできるような制度が考えられないものかと思う。

「老いるショック」に日本の市場が悩まされる日はすぐそこまで来ている。

大槻 奈那 ピクテ・ジャパン シニア・フェロー

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おおつき なな / Nana Otsuki

東京大学文学部卒業。邦銀勤務の後、ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。格付け会社スタンダード&プアーズ、UBS証券、メリルリンチ日本証券にてアナリスト業務に従事。2016年1月よりマネックス証券 執行役員。2022年9月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授を兼務。共著で、『S&P 日本の金融業界』シリーズ(東洋経済新報社)、『リテール金融のイノベーション』(金融財政事情研究会)、『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)など。ロンドン証券取引所 アドバイザリーグループ・メンバー。政府委員を歴任。

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