欧米と異なり口座維持手数料もかからないため、不要になっても口座を閉じる人は少なく、口座数は年齢とともに増えていく。筆者も銀行口座だけで3つ持っているが、今後もっと増えるかもしれない。
さらに悪いことに、日本ではキャッシュカードと暗証番号に加え通帳や印鑑まで管理しなければならない。これを3口座も日々管理するのは、高齢者にとっては負担である。
預金に加えて、証券口座の管理も問題になる。金融機関は口座開設や新たな金融商品購入の際には年齢確認やリスク性向のヒアリングを行うが、その後の売買時にはいちいち確認をしない。80歳の高齢者が、年間8億円、1日平均400万円もの株式の信用取引を行なっていた、などという例もある。家族が解約しようとしても、保有する証券を売却して解約するという意思を本人が伝えなければならず、代理で取引をストップすることはできない。
だからと言って、現金で持っておけば安全というわけではない。高齢者を狙う特殊詐欺は日本では年間360億円にも上る。米国でも「グランド・ペアレント・スキャム(祖父母の詐欺)」という類似の犯罪はあるが、1件数十万円、年間合計30億円程度と、被害額ははるかに少ない 。ATMや現金送金の制限の違いによるとみられる。
数百兆円の資産が本当に動かなくなる
金融資産保有者の高齢化問題の2点目は、市場への影響である。日本の家計金融資産1835兆円のうち3割・約600兆円を70歳以上の高齢者が握ることはよく知られているが、深刻な問題は、これら高齢者の認知レベルの低下である。
高齢者のおよそ4人に1人は認知症と軽度認知症だといわれる。単純計算では認知に問題を抱える高齢者が保有する金融資産は150兆円にも上る。個人の金融資産の増加と認知症の広がりで、2030年にはこの額は320兆円にも達するとされる。
深刻なのはこのうち約15%に上る有価証券投資である。2030年には認知に問題を抱える高齢者が50兆円もの有価証券を保有する計算となる。認知症と診断されてしまうと、保有する有価証券も預金口座も原則として凍結され、処分できなくなる 。保有有価証券の全額が株式や株式投信だと仮定すると、日本の株式時価総額600兆円の10%近くが固定されてしまう可能性がある。
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