「たばこのリスク」を甘く見る人が超危険な理由 「常に陸で溺れているような」症状出る場合も

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たばこを吸わないと10人が肺がんで死ぬとしたら、たばこを吸うと肺がん検診なしで40~50人が肺がんで死に、肺がん検診を受けるとそ の2割が肺がん死をまぬがれて肺がん死は32~40人になる、といったところです。検診を受けないよりは受けたほうがマシですが、たばこの害を打ち消すことはできません。

また、検診では肺がんで死ぬことは減らせても、肺がんにかかること自体は防げません。早く見つけて早く治療することで肺がん死は防げるとしても、がんの治療は体の負担になります。初めから肺がんにかからないほうがいいに決まっています。

さらに悪いことに、喫煙の害は肺がんばかりではありません。舌がんや喉頭がんといったたばこの煙と接触する器官だけでなく、食道がん、胃がん、膵臓がん、乳がん、膀胱がん、子宮頸がんといった別の部分のがんも増やします(※1 「たばことがん もっと詳しく知りたい方へ」国立がん研究センター がん情報サービス・一般の方向けサイト)。

有害物質が肺に到達し、血液中に吸収されて全身をまわってDNAを損傷し、がんになりやすくしたり、がんと戦う免疫の働きを弱くしたりすると考えられます。

もっと悪いことに、喫煙の害はがんだけではありません。心筋梗塞や脳血管障害といった血管系の病気や慢性閉塞性肺疾患(COPD)という肺の病気なども引き起こします。たばこを吸う人は「長生きできなくても、たばこを吸って太く短く楽しく過ごせればいい。肺がんになってもいい。覚悟はできている」というようなことをよくおっしゃいますが、慢性閉塞性肺疾患にかかったら太く短く楽しくとはいきません。

慢性閉塞性肺疾患は、肺胞という気管支の先にある酸素を取り入れて二酸化炭素を出す役割の組織が壊れて起こる病気です。咳やたんが出て息切れや呼吸困難感を生じ、ゆっくりと進行し、重症になれば常時酸素投与が必要になります。そのつらさは「つねに陸で溺れているようだ」と表現されることもあるくらいです。たばこを吸うなら、つらさを抱えてなかなか死ねないかもしれないという覚悟も必要です。

少量でも「害」がある

健康や長寿を望むのであれば、たばこを吸うのはやめましょう。たばこは「少量なら大丈夫」ということはありません。お酒であれば「ごく少量なら体によい」という説もありますが、たばこは少量でも害があります。

アメリカ国立がん研究所が約30万人の高齢者を平均6.6年間フォローしたコホート研究では、1日に1~10本、あるいは1本以下であっても継続的に長期間喫煙してきた人は、非喫煙者と比較して、総死亡率、肺がん死亡率、心血管死亡率が高いことが示されました(※2 Inoue-Choi M et al., Association of Long-term, Low-Intensity Smoking With All-Cause and Cause-Specific Mortality in the National Institutes of Health-AARP Diet and Health Study., JAMA Intern Med. 2017 Jan 1;177(1):87-95.)。

たばこには「この本数以下ならリスクは上がらない」という最小量はありません。減煙ではなく禁煙をおすすめします。

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