4. 世界の主要な野球国で実質的に「球数制限」をしていないのは日本だけであること
今回、台湾と韓国にライターを派遣して現地の「高校野球」を取材した。すでに台湾、韓国ともに大会での「球数制限」を導入している。これは大きな驚きだった。台湾では2006年のWBCで「球数制限」が行われたことがきっかけで議論が起こった。また韓国では一部指導者が投手を酷使したことを親が「国家人権委員会」に訴える騒ぎになっている。これがきっかけで「球数制限」が導入された。韓国ではルールが何度も細かく改定されている。
「球数制限」は、アメリカやその周辺国では「ピッチスマート」という厳格なルールですでに導入されている。そもそもドミニカ共和国など、MLBに人材を供給する国では、「10代の少年の肩ひじを酷使する」必要性がまったくない。
今、野球競技をする主要な国の中で高校生の「球数制限」をしていないのは日本だけなのだ。この「ガラパゴス化」を関係者はどう受け止めるのか。
筆者はここ数年、「野球離れ」の取材を続ける中で、野球少年の健康被害を憂慮する多くの指導者、関係者、医療関係者に話を聞いた。その意見は異口同音で、同じ方向を示していた。
そうした意見だけで1冊の本を作ることも可能だったが、できるだけ広範な人の意見も聞くようにした。なかには「球数制限」に懐疑的な人もいたが、それは「球数制限はしなくていい」ということではなくて、有効性や優先順位を問題にしての異論だった。
そして「球数制限は一切しなくていい」という意見を医学、教育的見地で展開する人がいれば、話を聞きたいと思ったが、そういう人は、寡聞にして知らない。
ファンや一部のジャーナリストの中には「高校野球は1ミリも変えたくない」と思っている人もいるだろうが、率直に言って今、現場に携わる人で「高校野球はこのままでいい」と思っている人はほとんどいないと思われる。
なぜ張本勲は炎上したのか
「球数制限」に消極的な指導者、関係者でも「議論するのはいいこと」「いずれは考えなければならない」という人が大部分だ。ベテランの指導者の本音は「そういうのは俺がやめてからにしてくれ」ということになるのではないか。
しかし、ここまで紹介してきたように、「球数制限」は古くて新しい問題だし、もはや日本以外ではとっくに導入されているのだ。早々に「球数制限」をクリアして「登板間隔」とか「トーナメントの是非」とか、「選手の試合出場機会の確保」とか、次のステージに進まなければならないのだ。「甲子園」の偉大さ、巨大さがそれを阻んでいる。しかし、この問題を乗り越えなければ「野球の未来」はない。
7月末の大船渡高校の佐々木朗希を巡る騒動は「球数制限」の問題が、もはや抜き差しならぬ事態にさしかかっていることを象徴している。そしてこれを全否定した張本勲に非難が集まっているのは、世間がこの問題をどのように見ているのかを端的に表しているのだ。
(文中一部敬称略)
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