遺産相続めぐる「骨肉の争い」はこんなにも醜い お金持ちじゃない家庭でも普通に起こる

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Bさんは預貯金をほとんど持っておらず年金で細々と暮らしている身であり、まとまったお金を支払う余裕はありません。やむなく息子に頼んで金銭を援助してもらい妹へ代償金を支払って何とか家を守りました。BさんもBさんの息子も何ともいえない苦々しい気持ちになりましたし、妹とは絶縁状態となっています。

ケース3:兄が遺産を隠した!刑事告訴の応酬

Cさんは、3人きょうだいの2番目(次男)。長男が長く両親と住んでいて、両親が亡くなった後にトラブルになりました。両親が所有していたはずの預貯金や現金などの遺産を、長男が隠した可能性があったのです。

Cさんは、生前、両親から家に多額の現金があることを聞いていました。しかし長男は証拠がないのをいいことに、現金が存在しない前提で遺産分割を進めました。

Cさんが調べてみると、長男は両親の存命中から両親の預貯金を使い込んでいたことがわかりました。両親が認知症になった後、多額の預貯金が出金され使途不明になっていたのです。

Cさんがそうした事実を指摘すると長男は怒って、Cさんと三男に対し、「ただで済むと思うなよ」と恫喝してきました。

Cさんは、長男の横暴に我慢できなかったので今は長男が継いでいる実家に行き、家の中を調べようと思い立ちました。実家の鍵を持っていたので中に入り、現金などがないか調べていると長男が帰ってきて、大騒ぎになりました。

長男は「泥棒!窃盗罪だ!」と言い出し、警察に刑事告訴をしました。Cさんも納得できず、長男から脅されたことについて脅迫罪、恐喝罪で告訴。互いに告訴し合う状態となりました。

もちろん遺産相続の話がまとまるわけもなく、双方が弁護士に対応を依頼しました。弁護士を通じて預貯金の内容はある程度明らかになりましたが、現金については調べようがありませんでした。

弁護士同士が話し合っても合意できる状況ではなかったため、遺産分割調停に持ち込まれました。

調停では「証拠のないものは遺産として認められない」と言われ、長男が隠している現金は「ないもの」として扱われました。

結局、長男が住んでいる実家の不動産、判明している預貯金を中心に、法定相続分に従って3等分することに決まり、長男がCさんと三男に代償金を払いました。

紛争は一応解決しましたが、Cさんは本心では「多額の現金」を遺産に含めてもらえなかったことに大きな不満を抱いています。

刑事告訴は、結局どちらも立件されず、双方が告訴を取り下げました。経済的な決着はつきましたが、互いに一生消えないしこりが残り、現在は両親の法事なども別々に行っている状況です。

こうしたトラブルはどこの家庭でも起こりうるものです。皆さんも相続トラブルに巻き込まれないよう、遺言書などによって事前の対処をしっかり行ってくださいね。

『週刊東洋経済』8月5日発売号(8月10日・17日合併号)の特集は「相続・終活・お墓」です。
福谷 陽子 法律ライター、元弁護士

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ふくたに ようこ / Yoko Fukutani

10年の弁護士としての経験を活かし、相続を始めとする各法律分野において執筆を行っている。現役時代から相続対策や遺産分割のトラブルに高い関心を持ち、数多く取り扱っていた。

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