子どもの時に覚えた外国語はどの程度残るのか バイリンガルになるかは"子ども自身"が選ぶ
日本で暮らす国際結婚の家庭で調査を行っていた新田文輝さんは、そのような英語母語話者である母親と子どもとの間の次のような会話*1を記録しています。ちょうど新田さんが母親に英語でインタビューしていたところに、彼女の6歳の息子(ケン)が割り込んできて、始まった会話です。
母:「ホワイ?」(どうして?)
子:「ダッテ ミンナ ネ、ケンクン コレ スキナンダ トカイウカラ イヤダ」
母:「(以下、英語で)じゃあ、もう1つのにしたら? あれ、前には大きすぎるって言ったじゃない。でも、好きなのを探してみたら? いいのが見つかったら持っていらっしゃい。それからね、ケン、お弁当箱をちゃんと包みから出して、流しまで持っていっておかなければダメよ」
子:「イヤダ」
この子どものセリフのカタカナ表記は、この子がすべて日本語で話したことを表しています。母親からは英語で話しかけられて育ってきたので、英語はわかっているようで、母親の言ったことにかみ合った受け答えをしています。しかし、日本語しか使っていません。
この調査では、調査対象になった家庭の子どもの3分の1が、家庭内で、母親が英語で話しかけても日本語で答えていました。そのような子どもの中にも、電話に出たりして必要になれば英語を話す子どもはいました。ですから、英語で話しかける母親に日本語で答える子どものすべてが、英語が話せなかったわけでもなさそうです。
なぜ英語の質問に日本語で答えたのか
では、なぜ英語を話さずに日本語で話すのでしょうか。
先ほどまで友達とはずっと日本語で話していたのであれば、ここで急に英語に切り替えるのが面倒だったり難しかったりするということもあるでしょう。
先述したケンくんも、日本語で友達に言われたセリフを引用していましたが、実際このような場合、ぴったりの英語の表現を見つけるのは簡単ではありません。用件が伝わればよいという場合の翻訳と違って、ニュアンスまでぴったりした表現を探すのは、それこそ翻訳家が専門的に取り組んでいるくらい難しい仕事です。
そのこととも関連しますが、日本語の園や学校に行って、今や日本語を使う時間のほうが長く、日本語の語彙や表現のほうが豊富になってきているとすれば、自分の言いたいことを表現するにはこちらのほうがいい、これしかない、ということもあるかもしれません。
それに加えて、母親に日本語が通じることを知っていれば、子どもとしては「どうしてわざわざ(自分にとってはすでに使いにくい)英語で話さなければいけないの?」ということにもなります。
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