毒舌でも自分の成長を促してくれる
もちろん、現実的にはビジネスの場において、いくら優秀だからといって、ここまでコミュニケーション能力に欠けた、他人と友好な関係を築けない、あるいは友好な関係を維持できない人間が生き残っていくことは難しい。
だが、オブラートに包んだ優しい言葉を選ぶことに労力を費やすよりも、その人にとって本当に必要なことをビシっと言ってくれる相手のほうが信頼を得られることもあるはずだ。また、そうした上司や同僚、あるいは部下の言葉に、瞬間的には腹が立ったとしても、ハウスの診断チームの部下たちのように、自分の能力を思った以上に飛躍させることができるかもしれない(脱落者は少なくないが)。空疎な褒め言葉や励ましより、毒舌であっても自身の成長を促してくれる相手の言葉に耳を傾けるほうが建設的だ。
医師の誤診で右足が不自由に
もっとも、ハウスの真の魅力は、実は彼が持つ弱さと不器用な生き方にある。ハウスはかつて、ほかの医師の誤診によって血栓の発見が遅れ、さらに正しい診断をするのに手間取ったことから右足の筋肉を失い、今でも杖をついて歩いている。慢性的な足の痛みに苦しみ、鎮痛剤のバイコディンを常用。シーズンが進むと、中毒症状に陥り、治療を余儀なくされるというエピソードも登場する。
つまり、医師の診断が患者の人生を大きく左右してしまうことを、ハウス自身が身をもって痛感しているのだ。難しい病気を次々と完治させたとしても、自分の右足を元どおりにすることはできないという、医師としての無力さを実感している。だからこそ、患者に甘い期待を抱かせないのかもしれない。痛みとはすなわち生きることなのだと、自分自身にも言い聞かせているのだろう。
一方で、ハウスは患者の病気の原因を突き止めることを、まるで謎解きでもするかのように楽しんでいる節がある。それを部下や同僚に指摘されるとハウスは反論しながら毒づくが、心のどこかで本当に楽しんでいるのではないかと、猜疑心が頭をもたげることもある。葛藤するときのハウスは、普段のエゴイスティックな振る舞いからは想像もつかないほど繊細だ。
また、人に冷たく当たりながらも、人並みに寂しいと思うこともあるあたりは、苦笑する。ハウスは恋愛においても、深入りできないし、されたくないので、誰と付き合っても自分から良好な関係を壊してしまう。似たようなタイプは、周りを見回せば誰かしら思い当たるのではないだろうか(自分自身も含めて!)。
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