全米ナンバーワンの信頼を視聴者から得る
アメリカのTVドラマには、時代によってトレンドはあるが、刑事ドラマ、弁護士ドラマに並んで、医療ドラマは非常に人気の高い定番のジャンルだ。古くは『ベン・ケーシー』から『ER緊急救命室』や『グレイズ・アナトミー』まで、毎シーズン、新番組に医療ドラマは必ずあるし、何年も続く人気シリーズが多い。
大抵の場合、主演格の医師たちは非常に人情味があり、時につらい決断をしながらも、つねに患者の身になって命の尊さを説き、患者と一緒に成長していくといったヒューマン・ドラマとなっている。
対して『Dr.HOUSE』の主人公ハウスは、TV史上初とも言える前代未聞のとんでも医師だ。苦虫をかみつぶしたような顔で周囲に不機嫌をまき散らし、患者の話を親身に聞くなんてことは絶対にしない。ハウスにとって、ウソをついているかもしれない患者の言うことは重要ではなく、かえって診断の邪魔になることもある。患者が弱音を吐き、自暴自棄になったり、治療を放棄しようとしたりすると、「死にたきゃ勝手に死ねばいい」と言い放つ。いくらなんでも、それは言いすぎだと多くの人が思うだろう。
親友ウィルソンでさえ、そんなハウスに愛想をつかして縁切り状態になることもしばしば。ましてや、部下たちに至っては、ハウスの元を何度も去ろうとするのは当然だ。いくら優秀な上司でも、こんな人のそばで働いていたら自分の神経が参ってしまう。
にもかかわらず、ハウスは番組の魅力の要としてカリスマ的な人気を誇り、なおかつ実際の名医や並みいる善良で人間味にあふれたほかの医療ドラマの人気キャラクターをも差し置いて、「全米が選ぶ信頼できる医師」で1位に選ばれるといった絶大な支持を視聴者から得たのである。
その理由は、ハウスが偽善という言葉とは最も懸け離れた、本音で話をする人間だからにほかならない。
ハウスは口当たりは非常に悪いが“本当に信頼できる人”を、いわば極端な形で体現するキャラクターなのだろう。いざとなれば頼りになるのはハウスの明晰な頭脳であり、大胆で強引で型破りな治療法も、すべては患者の命を救うためのもの。
そして、何よりも大事なのは、歯に衣着せないハウスの言葉は、患者自身に「生きたい」と思わせる力を持っていること。真実を語ることは時に残酷だが、おためごかしや気休めは、往々にして本人のためにいい結果にはならない。
ドラマを見て、もし自分の命を預けなければならない状況になったら、やはりハウスのような医者が望ましい、と考える人は全米の視聴者だけではないはずだ。
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