今般、フランスが義務教育を3歳からとした背景には、97.6%の3歳児が、日本の幼稚園にあたる保育学校に通っている現状がある。3歳児を通わせるのは任意である状況でこれほどの通学率だから、親の教育を受けさせる義務という点で、3歳から義務教育にしてもほとんど支障がないとみられる。ただ、貧困地域では6歳未満で保育学校などに通う子どもの割合は高くないのが実情である。
さらに、フランス政府の意図として、この義務教育の開始年齢引き下げによって、生まれた家庭の事情にかかわらず、皆が公平に人生のスタートラインに立てることを目指している。
親の世代の所得格差が子の世代に引き継がれないようにするには、子の教育機会の均等を確保することが重要である。とくに、幼児期に育まれる読み書きの能力に差があると、その後の人生を大きく左右するという。
幼児教育は認知能力を高める意味でも、生涯を通じた生産性を高める意味でも、ほかの年齢層の教育よりも一層重要であることは、教育経済学の知見から明らかになっている。国際的にもそのように認識されており、幼児教育に力点を置くことは論理的にも正当化できる。
義務教育化の実現には高いハードル
フランスのこの取り組みについて、日本でも一部に賛成する声があるが、日本の実情はどうか。2014年7月に出された教育再生実行会議の第5次提言は「3〜5歳児の幼児教育について、財源を確保しつつ、無償化を段階的に推進し、(中略)幼稚園、保育所及び認定こども園における5歳児の就学前教育について、設置主体の多様性等も踏まえ、より柔軟な新たな枠組みによる義務教育化を検討する」と打ち出した。
その後、前述のように、消費税10%時に3~5歳児の幼児教育を全面的に無償化する財源を確保した。この提言どおり、5歳児の義務教育化が検討されるのだろうか。
参院選の公約に、教育無償化はあっても義務教育化はない。義務教育化の選択肢が消えたわけではないが、実現が難しいのが現状である。
幼児教育を義務教育にすると、教育を受けさせたい親が子どもを通わせる教育機関が日本中どこにでも存在しなければならない。待機児童のような事態が起きてはならない。目下、政府は待機児童をなくす努力をしてはいるが、3歳児でもまだ待機児童は残っている。
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