日本で幼児教育を「義務教育」にできないわけ 最大のハードルは幼稚園と保育所の「壁」

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今回の教育無償化は、親が3歳以上の子どもを幼稚園や保育所などで教育を受けさせたいならその費用を無償化することを決めたまでで、親の意向とは無関係に3歳以上の子どもに全員、教育を受けさせる義務を課すことを意味するわけではない。教育・保育費用を無償にする財源が確保でき、最低限の教育カリキュラムを確保できても、3歳以上の子どもに教育を受けさせる義務を親に負わさなければ、3歳からの義務教育とは言えないのである。

確かに、前述の教育再生実行会議の提言も、明記しているのは5歳児の教育だけである。ちなみに、5歳児義務化は1971年に中央教育審議会が出した答申で一度打ち出されたことがあるが、結局実現には至っていない。

保育所は学校教育法上の教育機関ではない

日本で3歳以上を義務教育化する最大のハードルは、保育所は学校教育法が定めた教育機関ではない点だ。前述の提言でも、設置主体の多様性を踏まえなければならないほどである。義務教育である以上、教育機関がその教育を担い、政府が定めた学習指導要領などに準じた教育を税金を投じて無償で施す。義務教育は学校教育法で規定されており、同法に基づく教育機関ではない保育所は義務教育を担えるのか、と問われたりもする。

そもそも、保育士と幼稚園教諭は資格が異なる(ちなみに、保育士資格取得後に3年以上の実務経験を経て、幼稚園教員資格認定試験に合格すれば、幼稚園教諭2種免許状が取得できる仕組みはある)。教育を受けさせたい親からすれば、どちらであってもいい教育をしてくれればそれでよいのだから、つべこべ言わずともと思うかもしれない。

しかし、義務教育化するとなれば、幼児教育の質をどう担保するかが問われる。税金を投じただけでは解決できない課題の1つである。

結局、フランスは人材育成策としての幼児教育義務化を3歳児から進めることにしたのに対し、わが国は少子化対策としての幼児教育無償化をするにとどまった。教育を施す機関は幼稚園も保育所も従来と変わらない。

日本で幼児教育を義務化するには、幼稚園と保育所の「壁」を解かなければならない。幼稚園と保育所の区別にとらわれている間に、わが国にとって大切な次世代の育成が滞ってしまっては本末転倒である。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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