素子は、「じゃあ、いい機会だからどこか別のところを借りて一緒に住もう」とか「結婚しようか」とか、2人の関係を進展させる言葉が出てくることを期待していた。ところが、洋治からの返答は違っていた。
「更新したら、いいんじゃない? 素子のアパートは駅から近いし、近くにスーパーもあって便利だし」
ここで更新すると、また2年同じところに住むことになる。「この人は、私と結婚する気はないんだな」と思ったら、これまで胸の中に抑えていたものが一気に爆発した。そして、これまで言えなかった切り札を出した。
「私たち付き合って2年になるよね。私と結婚をする気はないの?」
その剣幕におののきながらも、洋治は飄々(ひょうひょう)と言った。
「素子のことは好きだし大事に思っているけれど、今はまだ仕事が安定していないから、申し訳ないけれど今は結婚は考えられないな」
そこで大げんかになった。そこから1週間は音信不通が続き、結局彼女から折れて連絡を入れ、関係を復活させたという。
出会いを求めて、シェアハウスの住人に
素子は続けた。
「結局、家の更新はしなかったんです。都心だったから家賃も高かったし、環境も変えたかったので、シェアハウスに移りました」
シェアハウスに引っ越すことにしたのは、家賃以外にも理由があった。
「私の友達が、シェアハウスに住んでいたんですが、そこで知り合った精神科医と結婚をしたんです。『一緒に住んでいる住人だけではなくて、住んでいる人たちの友達も遊びに来るから、出会いの場が圧倒的に広がる』と友人が言っていたので」
素子が見つけたシェアハウスは、渋谷駅から電車で30分という立地なのに、家賃はこれまでの3分の2。住人みんなが集まれる広いリビングがあり、冷蔵庫は共有。バス、トイレは男女分かれていて共有という、なかなかの好物件だった。
「自分の部屋に入ってしまえばプライベートは守られるし、リビングに行けば誰かしら話し相手がいる。1人暮らしだったときは、家に来るのは洋治が主で、本当にたまに仲のいい友達が遊びに来るくらい。1人になると寂しかったし、結婚のことばかり考えてしまっていたので、今のシェアハウスの暮らしは楽しいです」
そして、シェアハウスに引っ越したことで、“結婚を言い出さない洋治に執着していないで、婚活もしよう”という気持ちになった。それは、住人の独身女性のほとんどが、婚活アプリで婚活をしていたからだ。
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