GAFAによる「人類の家畜化」を止めるのは誰か 人間はすでに「大切なモノ」を奪われつつある

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もちろんこうなるのは、ありとあらゆるものが散乱するネット上には、本物の児童ポルノや犯罪に関わるものがあり、管理するために均一のルールを敷いてしまうという背景がある。

しかし例えば、「ナパーム弾の少女」は、少女本人の自伝が出版されており、その表紙はあの写真だ。

「ナパーム弾の少女」(Nick Ut/Canapress (c)Tous droits reserves)

これが児童ポルノとされたら、ベトナム戦争被害者の証言が、よりにもよって交戦国アメリカを代表する企業によって排除されるというめちゃくちゃなことになってしまう。たまたま有名な作品だから炎上したものの、ひっそりと排除されているものが実はほかにもあるだろう。こんなことに慣れて麻痺してしまったら、「常識」という感覚すら破壊されかねない。

強すぎる力は「健全な表現」すらむしばむ

さらにこの問題は、GAFAそれぞれのプラットフォーム上だけで起きているのではない。2018年1月、ドワンゴ社のサービスを使って配信している有料ブロマガ内の連載に、フェイスブックの表現規制に関する記事を書いたのだが、ここにアップル社からの矢が飛んできたのだ。

公式に配布されている「ナパーム弾の少女」の画像を掲載して削除事件の経緯を説明したところ、ドワンゴ社から「アップル社より、当該写真が児童ポルノに当たるため削除要請があったので、削除してほしい」という通達が届いたのである。

記事はパソコン、スマホのブラウザ、メール配信、アプリなどいろいろな方法で読むことができるのだが、アプリ版に関しては、ドワンゴ社が「アップルストア」と「グーグルプレイ」から配布しているため、2社の基準に従わなければならないらしい。

会員制かつ有料の場所に書いたものにまでそんな無茶な話があるかと怒ったが、ドワンゴ社としてはどうすることもできないようで、「弊社としては児童ポルノには当たらないとは考えているのですが……」と平謝りするばかりの担当者が気の毒だった。

ギャロウェイ氏によると、アップルストアで大成功をおさめたアップルの手元資金は、いまやデンマークのGDPとほぼ同じとされる。多くの企業が、その土俵の上で商売するしかない。

弱小国よりも強い力を持ったGAFAは、同業者をどんどん駆逐し、「わが社のルール」を世界に押しつけ、そぐわないものは排除してしまう。この「多様化」が叫ばれる時代に、まったく真逆の世界へと推し進めてしまっているのだ。そして、人々からは考えることを奪い、欲求することすら奪おうとしている。

こんなふうにGAFAに向かって腹を立てても、爪ようじで戦車をつつくようなもので、結局アイフォンを手に取る身では、なんの意味もないのかもしれない。けれど、このまま惰性で受け入れて、GAFAの家畜まっしぐらなんて道はいやだ! 個人としての疑問と怒りを忘れたくない。

まずは、自分たちが置かれているテクノロジー時代の現実を理解しておくことが必要だ。

幸いにも、と言ってはなんだが、『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』では、著者ギャロウェイ氏による冷徹なGAFA分析と、そしてかなり過激で発憤気味のGAFA批判とが怒涛のごとく展開されている。

本書を読んで、「GAFA怖い」と震えるだろうか。それとも「GAFAふざけやがって!」と憤るだろうか。後者の気概を持つ人々の中に、四騎士の支配の世界に殴り込む妙案が生まれるのだと私は思っている。

泉美 木蘭 作家・ライター

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いずみ もくれん / Mokuren Izumi

1977年三重県生まれ。24歳でイベント企画会社を起業し、即刻倒産。借金返済のために働く日々をつづったWebサイトが話題を呼び、作家デビュー。以降、週刊誌やWeb媒体等で執筆。TOKYO MX「モーニングクロス」「激論!サンデーCROSS」などテレビ番組でレギュラーコメンテーターとして出演。著書に『オンナ部』(バジリコ)、『エム女の手帖』(幻冬舎)、『会社ごっこ』(太田出版)等。趣味は合気道とラテンDJ。

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