GAFAによる「人類の家畜化」を止めるのは誰か 人間はすでに「大切なモノ」を奪われつつある
自分が「欲しい」と思ったものを、自分で選んで注文し、届くのを待つ。それがネット通販だが、ギャロウェイ氏によれば、アマゾンは消費者の「意思決定」や「注文」という作業なしに、物質的な欲求を自動的にすくい上げ、満たしてしまう未来へと向かっているという。
今はアレクサを介してキッチンペーパーを注文していても、それを繰り返すうちに、この家庭がどのくらいの頻度でキッチンペーパーを消費するのか、その購買パターンがビッグデータとともに分析可能になっていくというのだ。
すでに日替わりで弁当や冷凍パックの食事を配達する宅食サービスはあり、高齢者や産前産後などで買い物が難しい家庭などに利用されているから、生活必需品から衣料品まであらゆるものを自動注文化し、アマゾンプライム会員に手軽に利用させることは技術的にはそう難しくないのだろう。
やがてアマゾン・エコーで家族の会話を聞いて、必要と思われるものを勝手に届けたり、好きそうなデザインの洋服を何点か送ったり、「こんなのいらない!」と言えば返品用の箱を届けたりということも考えられる。
以前、データ入力業の方から、スマホの音声認識に話しかけられた音声データを文字起こしするという仕事について話を聞き、そんなふうに音声が抜かれているのかと驚いたが、スマートスピーカーも当然、その家庭内での音声はデータとして精度を上げるべく分析されているはずだ。
アレクサに話しかけていたCMのパパは、将来はアレクサから「お父さん、キッチンペーパーがまもなく切れます。シンク右下の棚に新品があるので交換してください」と先手を打って命令されるようになるかもしれない。そのときにはもう「これが欲しい」という自発的な欲求さえ奪われて、すべてアマゾンという一企業の枠の中で生かされている状態だ。
最初に、自分はGAFAから「必要なものだけ」を与えられている家畜みたいなものではないか、と書いたが、実は「何が必要なのか」という意思決定すら委ねてしまう、本当の家畜化がこれから始まっていくのかもしれない。
GAFAは多様性と常識を破壊する
ここで困るのは、アマゾンの完全自動化、大規模化によって小売店がせん滅させられていくことだ。アメリカではアマゾンはすでに「小売りのサタン」となり、ウォルマートやKマートなど著名な小売りブランドも含めて同業企業がめちゃめちゃにされ、「アマゾン以外はほぼ敗者」というゼロサム・ゲームを展開しているという。
そんなになるまで保護を考えないのかと思うと、自由の国・アメリカの自由さも問題があるなと思うが、日本もひとごとではない。
GAFAのような巨大企業は、富だけでなく、社会の豊かさ、多様性をも奪っている。それは、アマゾンのような物質的な独り勝ちだけではない。
例えばフェイスブックでは、フランスの巨匠ドラクロワの名画「民衆を導く自由の女神」が、上半身裸の女性を描写しているという理由で掲載禁止になったり、ベトナム戦争の悲惨さを伝える報道写真としてあまりにも有名な「ナパーム弾の少女」が児童ポルノと判定され、問答無用で削除されるなどの事件が起き、大問題となった。
いずれもその後、フェイスブックがそれぞれの作品に対して個別に判断を撤回しているが、作品に対する冒涜云々という観念的なことよりも、もはやインフラとも呼べる規模のサービスを展開している一企業が、その企業ルールによって情報統制を行ってしまい、一国を飛び越えて、勝手に人々の知る権利や表現する自由を狭める世界を作っているというのは、もはや危険だと感じたほうがいい。
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