なぜシェールガスはカベにぶつかっているのか 世界平和研究所主任研究員の藤和彦氏に聞く
――開発コストがかさむのに価格が安い状況では採算が合いません。
実際、エクソンモービルですら「生産すればするほど赤字になる」と悲鳴を上げている状態で、到底、長続きするとは思えない。シェールガスの大規模開発が始まって8年。採掘の経験が増えるにつれ、ガスの産出量の減少が在来型のガス田より早いことが明らかになっている。
多くのシェールガス田ではガスの産出が始まって3年経つと産出量が75%以上減少する。ガスの産出量を維持するためには、次々と新しい井戸を掘り続けなければならず、毎年3割以上をリプレースしなければならない。典型的な「自転車操業」で、米国全体で2012年に420億ドルものコストがかかったと言われている。
一方、米国全体で産出されるシェールガスの売上高は325億ドルなので、年間100億ドルもの赤字経営を強いられていることになる。開発企業は有望な場所から順にガスを採取するので、今後、新たな井戸を掘り当てても、産出量はあまり多くないと考えられる。
加えてバブルのあおりを受けて、ガス業界は掘削技術者の獲得と報酬確保に必死になっている。2013年にはシェールガス探鉱ブームは終わり、今後は技術革新を進めるなどして生産コストをどこまで下げるかが焦点となっている(著書「シェール革命の正体」に詳しい)。
バブルは「終わりの始まり」
――「シェールガスはバブルではないか」との声も聞こえてきます。
米国の天然ガス価格はシェールガスの急増で値崩れし、2013年を通じ3~4ドルと低迷しているが、シェールガス田の多くはガス価格が8ドルにまで回復しないと採算が合わないと言われている。米国のシェールガス開発企業はバラ色の未来像を振りまき、国内大手企業や外国企業などにガスの採掘権を高値で転売し売り逃げているのではないかとの懸念が高まり、関係者の間では「ガス開発会社は将来の生産を楽観しすぎている。負債が大きすぎないか。住宅の値上がりを期待し借金を重ねて失敗したリーマンショックから学んでいない。バブルだ」とささやかれはじめた。
その矢先の2013年4月、オクラホマ州でシェールガスなどを生産するGMXリソーシズは連邦破産裁判所に対して、米連邦破産法第11条(日本の民事再生法に相当)を申請した(負債総額:4.6億ドル、総資産額:2.8億ドル)。この会社は天然ガス価格の値崩れのせいで8期連続の赤字を計上していた。ノースダコダ州やテキサス州などの有望鉱区で権益を保有していたが、過熱する開発ブームで鉱区の権益価格が急騰し、買い手がつかなかった。GMX社の破綻は、日本のバブル崩壊と同様、「終わりの始まり」なのかもしれない。
――日本の輸入価格にはどういった影響があるのでしょうか。
過去5年間のような急激な生産増の予測が反転すれば、米国内の天然ガス価格が極端に上昇する可能性もある。ヘンリー・ハブは「ローカルマーケットの田舎価格」と揶揄される。取引量が少ないうえに、北米地域の事情が色濃く反映されるためにちょっとした要因でも価格が乱高下しがちだ。ハリケーン・カトリーナの影響で10ドル以上に達したことがあるし、2003年後半は厳冬により18ドルにまで高騰した。
米国内ではパイプラインで安価な価格で流通しているが、日本への輸出には、液化のための冷温設備や輸送コストが6~7ドル(最大10ドルという指摘もある)上乗せされることになる。
この冬、寒波予報と在庫減が要因となり、米国の天然ガス先物価格は2013年12月に入り、2011年7月以来の高値を更新しているが(12月23日時点で4.53ドル)、2014年は10ドルを超えその後高値で推移することも予想される。そうなればシェールガスを日本に導入することによって、他のLNG供給者への価格交渉カードにするという戦略は「絵に描いた餅」になる。
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