なぜシェールガスはカベにぶつかっているのか 世界平和研究所主任研究員の藤和彦氏に聞く

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――LNG調達の多様化の柱との期待は難しいということでしょうか。

供給が国情によって変化する北米に依存することは、エネルギーの安全保障の観点からもよいこととはいえない。世界の天然ガス供給のうち90%はパイプラインで、LNGは10%にすぎない。そしてLNG貿易の80%は日本向けだ。日本にとって輸入天然ガスは100%LNGであり、安定供給のために20年、30年といった長期契約で、原油価格連動という極めて不自由で割高な取引条件に縛られている。

他の需要国はパイプラインによる天然ガスと比較し有利な価格を選択することができるが、パイプライン網のない日本はそれができない。そこで、サハリンからパイプラインを敷設し、ロシアの天然ガスを日本に持ってくる方法が考えられる。

――かつてのヨーロッパでのガス供給停止騒ぎを思い出します。ロシアから安定供給できますか。

ロシアはいま、北米のシェールガス革命のあおりを受けて、ヨーロッパへの供給量が落ちています。新しい需要家を獲得したいが、中国や韓国との交渉がはかばかしくなく、日本への供給は望むところ。ヨーロッパへの供給は旧ソ連時代に始まったが、ソ連崩壊時でさえ止まったことはない。2006年、2009年の供給停止はウクライナとの価格交渉と不正な抜き取り問題に端を発したもので、ウクライナから先への輸送ができなくなってしまったことが原因。このあと、ウクライナを迂回するルートの開発も進められている。

ロシアにとって、天然ガスは重要な外貨獲得手段であり、安定供給は生命線だ。政治的な事情で供給を止めるようなことがあれば、結局自分自身の首を絞めることはよくわかっている。むしろ安定的な経済関係を結ぶことにより、政治的な関係も安定すると見る方がいい。1969年に西ドイツのブラント首相がロシアからのパイプラインを導入した背景にも、同じ考え方があったのではないか。

コストは5000億~6000億円

――パイプライン敷設のコストはネックにはなりませんか?海底部分が長いと工期もかかるのでは。

サハリンから北海道まではおよそ600㎞だが、海底部分はせいぜい50~60㎞だ。東京まで敷設しても2000㎞。ガスパイプラインは4000㎞までがペイラインと言われており、十分圏内だ。コストは5000億~6000億円、2~3年でガス輸送が可能になる。LNGの場合、液化プラント、タンカーで約9000億円は掛かる。受け入れ基地も必要だ。

さらに、誰がそれをやるかという問題もある。サハリンについては、電力会社や総合商社などの国内資本はLNG投資のからみもあって難しい。国際石油メジャーの一角に打診をしているところだ。

――国際パイプラインのほかに国内にもパイプライン網が必要です。

国内には、およそ2700㎞のガスパイプラインがある。北海道から高速道路網を利用して陸上に敷設するのが一番いい。関東まで1400㎞を海底パイプラインで、という構想もあったが、漁業権の問題もあり難しいだろう。1980年代にあったサハリン1からの海底パイプライン構想は、主要需要家である電力会社の拒否にあって実現しなかった。

だが、原発の長期停止や石油をはじめとする老朽火力の過剰な創業による電力供給不足のリスクは高まっている。パイプラインという新たな調達法を確保することは、LNGの価格交渉カードとしても使うことができる。日本は、エネルギー安全保障上からも、早急にパイプライン敷設に動くべきだ。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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