なお、将来不安が高くなると、リスク資産の投資拡大にはネガティブな要素がある点も付言しておきたい。祝迫得夫教授は「家計・企業の金融行動と日本経済」(2012年、日本経済新聞出版社)で、将来不安(予備的貯蓄動機)と家計のリスク資産投資について、下記のように述べられている。
「若年世代はもしリスク資産への金融投資で損失が発生したとしても、労働供給を増加させて余分に働くことで、ある程度、損失を穴埋めすることができる。このため若い家計は定年直前の家計よりは、金融資産投資でより大きなリスクを取ることが可能なはずである」「しかし、将来の労働所得に大きな不確実性が存在する場合には別の力が働く」「若い家計は将来の労働所得リスクを十分にヘッジすることはできず、借入制約に直面することになる。つまり、労働所得の存在は、借入制約や予備的貯蓄動機が重要な影響を与える若い世代では、むしろ家計のリスク資産投資を抑制する方向に働くものと思われる」
今回の「老後2000万円」問題は、上記で議論されている労働所得の問題とは直接関係がないものの、年金という将来の所得に対して不確実性が増したと家計が考えるきっかけを作ったという意味では、予備的貯蓄動機を強めるものである。したがって、リスク回避的な家計を中心に、リスク資産投資を抑制する可能性が高いだろう。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら