増税を控えてすでに消費マインドは冷えている 「老後2000万円」問題もタイミング悪く

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なお、将来不安が高くなると、リスク資産の投資拡大にはネガティブな要素がある点も付言しておきたい。祝迫得夫教授は「家計・企業の金融行動と日本経済」(2012年、日本経済新聞出版社)で、将来不安(予備的貯蓄動機)と家計のリスク資産投資について、下記のように述べられている。

「若年世代はもしリスク資産への金融投資で損失が発生したとしても、労働供給を増加させて余分に働くことで、ある程度、損失を穴埋めすることができる。このため若い家計は定年直前の家計よりは、金融資産投資でより大きなリスクを取ることが可能なはずである」「しかし、将来の労働所得に大きな不確実性が存在する場合には別の力が働く」「若い家計は将来の労働所得リスクを十分にヘッジすることはできず、借入制約に直面することになる。つまり、労働所得の存在は、借入制約や予備的貯蓄動機が重要な影響を与える若い世代では、むしろ家計のリスク資産投資を抑制する方向に働くものと思われる」

今回の「老後2000万円」問題は、上記で議論されている労働所得の問題とは直接関係がないものの、年金という将来の所得に対して不確実性が増したと家計が考えるきっかけを作ったという意味では、予備的貯蓄動機を強めるものである。したがって、リスク回避的な家計を中心に、リスク資産投資を抑制する可能性が高いだろう。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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