不動産会社の印象が悪化したわかりやすい経緯 業界はあまりにも複雑化してしまった

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最近ではインドのホテルチェーンがソフトバンクの支援を受けて始めた「OYO LIFE」が敷金・礼金・仲介手数料なしで、入退去がスマホ1つで完結するという画期的なサービスを開始して、話題になっている。

複雑でわかりにくい従来の賃貸契約に比べると明快で面白いが、賃料が高く、とくに長く住めば住むほど高くなる仕組みが選ばれるかどうか。また、賃貸居住者はホテルのような部屋に、モノを持たずに暮らしたい人ばかりでもなかろう。これ以外にもこれまでIT投資が少なく、労働生産性が低い上に高齢化が進む不動産業界を変えようと、多くのIT企業が参入を始めている。少しずつなりともわかりやすくはなっていくのだろう。

発想を変えないとイメージも変わらない

だが、ITで賃貸業界がわかりやすくなったら不動産屋さんのイメージが変わるかと言えば、残念ながら、それはどうだろう。右から左に情報を流すだけの仕事をし、収益が減った分をヨソで掠め取ろうという発想自体を変えなければ事態は変わらない。

幸いなことにごくごくわずかではあるが、それに気づき、徹底したサービスを提供したり、町に関わり必要な施設を生み出すことで本来の不動産業を行ったり、地域密着で地元の不動産問題に関与するといった面白い活動をしている不動産会社もあり、地道に業界は変わり始めている。

もう1つ、賃貸仲介は不動産会社不要でも可能なため、本来は「大家さん」と呼ばれる人たちが変わり、直接、入居者と契約を結べるようになればクリーンになるのだろうが、そちらは変わりそうにない。

過去にはいくつか、直接取引を可能にするサイトが登場したが、いずれも早々に撤退。現在も同様なサイトはあり、これまで以上に続いてはいるが、メインとなることはなかろう。だが、その中でもできる大家は自分で直接入居者を見つけるようになるなど、わずかながら変化の兆候は見られる。

複雑化しすぎていて、どこに清浄化への糸口があるか見えにくい業界ではあるが、動きは確実に起こりつつある。個人的にはこれほどに複雑で遅れている業界のほうがやりようはあり、面白い気もするが、どうだろう。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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