就活セクハラが根本的には防ぎきれない理由 ごく少数の異常犯罪者は社会に混ざっている
ここからの話はいったん、就活セクハラから大きく離れた話題に発展することになります。
今年7月に公開される『カニバ/パリ人肉事件38年目の真実』という映画があります。題名のとおり1981年にフランスで起きた佐川一政による殺人事件を題材にしたドキュメンタリー映画です。私は試写会で本編を見たのですが、そのときに私が受けた印象は他の試写会を見た人たちとは真逆でした。
映画のパンフレットにコメントを寄せた有名人たちはおおむね「目をそむけたくなるような映画」という感想なのですが、犯罪研究家の視点で見ると、この映画は違った関心を引きます。ロバート・K・レスラーの研究をまさに裏付ける、異常犯罪者のリアルを撮ったフィルムとしてとても興味深い映画なのです。
佐川一政の殺人は司法としても数奇なプロセスをたどりました。あまりの異常殺人ということからパリでは精神異常者による犯罪として精神科の病院送致の判決が下された後に佐川一政は国外退去になります。
一方、日本に戻った佐川一政に対して日本の精神科の病院は異常者ではあるが精神疾患ではないとして退院させます。こうして裁判の一事不再理の原則によって佐川一政は塀の外で生きることになり、結果としてその日常や回想を撮影した『カニバ』というドキュメンタリー映画が成立することにつながるのです。
異常犯罪者のプロファイルと権力者のマネジメント技術
FBIの心理捜査官としてプロファイリングという手法を確立したロバート・K・レスラーによれば、こういった世間が理解できない異常殺人の多くが実は性犯罪なのだといいます。アメリカにはアルバート・フィッシュ、ジェフリー・ダーマー、ジョン・ゲイシーといった有名な猟奇連続殺人犯がいるのですが、彼らの殺人の共通の動機は「異常な形で性欲を満たす」ためでした。そして映画を見る限り、殺人行為の中で性的な興奮を感じていたという佐川一政にもそのプロファイルがきちんと当てはまるのです。
レスラーが秩序型異常犯罪者と呼ぶ犯罪者のプロファイルには共通点があります。
②襲う相手を見極めて自分よりも力の弱いものを狙って誘う。
③巧みな話術で誘導し、精神的に相手よりも優位になるように仕向けることができる。
④彼らはなぜか一般人と違い、犯罪に対して罪悪感を持たない。
⑤一度犯罪を起こすとその経験が快感となり、次はもっとうまくやろうと計画する。そして犯罪が繰り返される。
⑥犯人が捕まってはじめて、周囲の人たちは「彼がそんなことをする人間だとは思わなかった」と感想を述べる。
アメリカではこういった異常犯罪者の犯罪が猟奇犯罪へとエスカレートするのですが、他の先進国では社会的な意識の違いや警察制度の違いによってその手前で止まるものだといいます。
実際、日本の場合は異常犯罪者による連続殺人はあまり起きない(大久保清事件など事例はあるけれどもアメリカほど数は多くないという意味)という特徴はあるけれども、憂慮すべき点としてはその手前の連続性犯罪事件は日本でも頻繁に起きているのです。
とくに①から③までの振る舞いは権力者のマネジメント技術と類似しています。このようなテクニックを用いて上司として精神的に相手を過剰支配してコントロールすること、つまり部下に対するパワハラと、そうではないとされる適切なマネジメント技術とはその線引きが難しく、今回わが国で成立した法律でも具体的な指針が見送られたほどです。
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