「世界の亀山」を追われた外国人3000人のその後 「月給70万円」では到底なかった現実
外国人労働者たちは、ヒューマングループの派遣会社と1~2カ月の雇用契約を結び、契約満了になる前に退職届を書き、またグループの別会社と同様の契約を交わす。そのようにして短期間での契約が会社を変える形で延々と繰り返されていた。派遣先はシャープ亀山工場で業務内容も変わらないのに、だ。
「派遣会社にとって社会保険の支払い義務を免れるうえ、労働者に有給休暇をとらせなくてもいいので好都合。工場の生産が減って人を減らしたいときも、合法的にクビを切ることができます。契約満了にすればいいのです」(神部さん)
前触れもなく「会社がなくなる」こともあった。勤務中、指をケガしたシマヅさんが労災保険の手続きを求めたところ、派遣会社の担当者は「工場の減産で廃業した。会社がなくなったので手続きできない」と話し、つっぱねたという。
こうした雇い方・働かせ方は外国人労働者だけ、と神部さんは言い切る。
「相談に訪れる外国人労働者のほとんどが派遣です。工場の稼働状況でシフトが増減するので働いていても貧困だったり、生活は不安定。仕事の選択の余地がないうえ就業規則は日本語で書かれているので、不利益をこうむりやすいんです」
シャープは「誠に遺憾。できる限りの対応に努める」としながらも『ユニオンみえ』の求める面談には応じていない。
「月70万円」求人の不都合な現実
派遣会社を通じて、シャープ亀山工場に外国人が大量に送り込まれたのは2017年秋のことだ。近隣の日系人コミュニティーから約3000人がかき集められた。当時は「夫婦共働きで月給70万円、家具や家電つきのアパートあり」などと宣伝されていたという。
日系ペルー人のロサレス・ソニアさん(49)も、
「仕事はいっぱいある。人手が足りない」と請われて、同年9月から亀山工場で働き始めた。仕事はiPhoneの部品製造。1200円だった時給は11月には1300円に上がった。
しかし、間もなくシフトが減らされるように。2勤3休になると月給12万~13万円ほどにまで落ち込んだ。当時、1人娘が高校進学を控えていた。これでは生活が立ち行かない。
生産量が減ったことから、ロサレスさんは工場内の別の仕事へ異動になった。そんなとき、金属の網状になった床に足をとられて転倒してしまう。
「医者からは2カ月安静と言われて労災も申請しました。生活があるので、早く復帰できるよう診断書を書いてもらったのですが、2018年9月にクビになりました。派遣会社に抗議したけれど、みんなクビになるから仕方ないと。いまも歩くのに支障があり、力を入れると転倒してしまうので、座ってできる仕事を探しています。でも、なかなか見つかりません」(ロサレスさん)