「世界の亀山」を追われた外国人3000人のその後 「月給70万円」では到底なかった現実

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同じくペルー出身の日系3世、スズキ・ファビオラさん(38)も職探しが難航している。高校1年の息子がいるシングルマザー。2000年に20歳で来日。亀山工場では2015年から働いてきた。

「ペルーは治安が悪いんです。靴が欲しかったとかささいなことで人が殺されています。日本で暮らすようになってから1度、ペルーに息子を連れて戻りましたが“怖い、2度と帰りたくない”と言っていました。日本で生活していくと決心したようです。家族もみんな日本にいますし、がんを患っている父のそばにいて手の届くところで支えたい」

そんな思いとは裏腹に、スズキさんは困り果てていた。職がなく、いつアパートを追い出されるかもしれず、車検の費用もない。友人の紹介で滋賀県に仕事があると聞いたが、通勤に1時間半以上はかかる。

「滋賀でワンルームのアパートを借りて、なんとか稼いで息子を支えられるようになりたいといまは考えています。本当は三重県で仕事を見つけたいのだけど……」(スズキさん)

東海地方には自動車や電気機器の製造業が集中する。人手不足が続くなか、外国人の労働力を求める企業の需要は高い。亀山工場で雇い止めにあった外国人のなかには、他県へ移動して再び製造業派遣の仕事に就くケースも少なくない。

鈴鹿市にはブラジル食材の大型スーパーも(写真:週刊女性PRIME)

前出・神部さんは「単身者や1人親など“稼ぎ頭は自分だけ”という人は仕事が見つかりにくい。子どもがいると、学業との兼ね合いもあって自由に移動ができないのでハードルが上がります。年齢が高い人、心臓疾患などの持病がある人も難しい」と指摘する。

一方、行政の対応は後手に回っている。亀山市と鈴鹿市で2月に開かれた相談会では、職業相談で紹介される求人がハローワークと同じ情報で、しかも募集を締め切ったものばかりだった。4月下旬から県営住宅を半額の家賃で貸し出す支援もあるが、雇い止めが相次いだ時期から半年以上が経つうえ、入居期間は1年に限られるという。

このままではさらに状況は悪化する

4月からの入管法改正により、政府は今後5年間で最大34.5万人の外国人労働者の受け入れを見込む。神部さんは懸念を隠さない。

「いまでさえ外国人労働者は派遣が多く、簡単にクビを切られるような働き方で、生活者としての受け入れ態勢や支援も手薄。日本にルーツを持つ日系人に対してでさえそんなありさまです。このまま進めば雇用や労働環境だけに限らず、さらに状況は悪化するでしょう」

外国人が多く暮らす津市では、ゴミの表示も多言語が当たり前(写真:週刊女性PRIME)

今回の法改正と同様に、1990年の入管法改正も人手不足が理由とされた。バブル景気のもとで労働需給は逼迫、そこで日系2世とその家族に「定住者」の在留資格を創設し、制限なしに日本で自由に働けるようにしたのだ。

以来、ブラジルやペルー、アルゼンチンなどの国から働きに訪れた日系人の数は2007年に31万7000人を突破。2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災で減少したものの、近年は再び増加しつつある。いずれ帰るというニュアンスのある「デカセギ」ではなく、文字どおりの「定住者」が増えているのだ。

そんな現実とは裏腹に、日本政府は、現在にいたるまで一貫して「移民政策ではない」との姿勢を崩していない。

「高校生になった娘が日本で勉強を続けて生活したいと言っている。私も母親ですから、娘を応援したい。ここで頑張りたい」

こう話すロサレスさんの思いに応えられるのは、いつの日になるのだろうか?

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