悩める「青葉区オジサン」が集う理容室の秘密 都会の「3高」「50代」の迷いのループとは

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ソムリエによる「ワイン&日本酒セミナー」や大学の研究者による「心理学講座」などの実用的なテーマで、横濱さんの人脈を生かして毎回ゲストを呼び、学びながら語り合うという体裁だ。なじみの客に気軽に来てもらいたいと、お酒とおつまみ付きで参加費は1人1000円程度と格安に設定している。これをきっかけに仲間ができたという人も多く、地域イベントに参画したり、飲み会やソフトボール大会を企画したりと、街の小さな理容室が新たなコミュニティーづくりのホットスポットになっている。

横濱さん(下段中央)とセミナーに集まる「青葉区オジサン」の面々(写真:横濱さん提供)

このセミナーの常連で大手精密機械会社に勤める鎌田さん(50歳)は「強制もしがらみもなく、対等で自由につながり、エゴも中傷もなく、お互いが尊重し合えるコミュニティーであるのが居心地のよさ」と話す。

昨年、大手損保から転職した柴山さん(55歳)も「われわれの世代が関心を持つテーマのセミナーから単なる飲み会まで、横濱さんの類まれなネットワークパワーで、世界が広がっている。会社での立場が中心の生き方にこだわるのではなく、自分がやりたいことを我慢しない生き方を探すようになった」と大いに刺激を受けている。

出会いのきっかけはラジオ番組だった

変化に臆病になりがちな中年男性たちを惹きつけるのが、人の壁をあっという間に越える横濱さんの不思議な磁力だ。そもそも、筆者と横濱さんの出会いは昨年の春。世界で今、孤独が「伝染病」として危惧されていること、日本の男性が定年後、孤独に陥りやすいことなどについて掘り下げた本『世界一孤独な日本のオジサン』を出版した筆者が、ゲスト出演したラジオ番組を、たまたま、横濱さんが聞いていたことがきっかけだった。

Facebookを通じて、「これはまさに『田園都市線沿線のオジサン』の話だと思う」とメッセージを送ってきた。見ず知らずの相手でも上も下も関係なく、遠慮も恐れもなく、心を開いていく横濱さんの類いまれな「コミュ力」もあり、お付き合いが始まった。先日は、筆者もお招きを受けて、「定年後の人生をハッピーにするセミナー」と銘打ち、コミュ力の改善法や孤独をテーマに、じっくりと語り合ってきたが、これからの生き方を真剣に模索する参加者との議論は大いに盛り上がった。

横濱さんは青森の出身。小さい頃はドリフターズを見て、「とにかく、人を笑わせることに命を懸ける少年」だった。こうした「お節介」を焼き続ける理由の1つに、19歳で東京に出てきて肌で感じた「都会の孤独感」がある。物理的には近いのに、地球の裏側ほどの心の距離感を感じる人間関係。周りはすべて知らない人、誰1人助けてくれない、頼れない……。そんな強烈な原体験だ。

上京後、あざみ野の隣駅の理容室に勤め始めてから、商店街活動やお客さん同士を結びつけるイベントを企画するなど、コミュニティ作りに積極的に取り組んできた。スマイルプロジェクトと称し、地域の美容師、パン屋、整体師、カフェ、保険屋など経営者を集めて、商売に役立つノウハウを学ぶセミナーも定期的に開催している。自分の店を始めるにあたって、名付けた理容室の名前が「THE SMILE COMPANY」。まさに、「人を笑顔にする」ための居場所でありたいという思いを込めた。

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