実際に、トランプ政権による2018年から減税による成長押し上げが、同年からの強硬な関税政策を可能にしている。そして、同じことはアメリカ以外の国にも当てはまる。つまり、輸出あるいは対外投資環境の不確実性が高まる中で、各国の財政金融政策による総需要安定化政策の出来が、経済・金融市場の格差につながるわけだ。
アメリカの関税引き上げの主たるターゲットとなっている中国では、2018年半ばからインフラ投資が増え始め、また個人消費を下支えする減税政策も発動された。政策効果についてはさまざまな見方があるが、筆者は関税引き上げの悪影響のかなりの部分が相殺されると考えている。また、他のいくつかの新興国やオーストラリアなどの資源国は、中央銀行が金融緩和政策姿勢を強めており、同様に経済安定を下支えするだろう。
欧州でも当局の景気配慮姿勢が強まっている。英国の欧州(EU)離脱の行方が見通せない情勢が続く中、ECB(欧州中央銀行)は2018年末に量的金融緩和拡大をやめた。だが、成長率の減速などをうけて、イタリア銀行などへの信用供与政策発動、そして2019年内にマイナス金利政策を続けるガイダンスを強化することによって、金融緩和姿勢を強めた。さらに「黄色いベスト運動」の混乱に直面したフランス政府は、4月末に家計に対する減税政策が発表しており、2019年は欧州では財政政策が成長押し上げにはっきりと作用する。
1ー3月の主要国のGDP成長率をみると、減速が懸念される中国では財政政策の効果で前年比6.4%と減速に歯止めがかかり、米GDPは年率約3%、イギリス含む欧州のGDPは同1.5~2.0%といずれも経済成長は総じて安定している。
主要国の中で、日本だけが緊縮政策をとるのか?
一方、日本では、政府による景気判断が6年ぶりに「悪化」に転じ、5月20日発表予定のGDP成長率はほぼゼロ成長と試算され昨年10ー12月から均してみると世界の中で最も低い経済成長となっている。2018年度後半の経済減速によって、企業業績も小幅ながらも減益となったのは必然である。企業業績悪化によって、2019年度はボーナスを中心に、賃金の伸びも引き続き低いままだろう。
このように、他国対比で明らかな日本経済の低調には、いくつかの要因が影響しているが、筆者は金融財政政策が引き締め的に作用していることが最大の要因だと考えている。
2018年夏場に日本銀行が、(事務方主導だと思われるが)「副作用という曖昧な理由」を掲げ金利上昇を容認する迷走を始めたタイミングで、肝心の経済とインフレが失速し始めたということである。現行のYCC(イールドカーブコントロール)の枠組みでは、緊縮的な財政政策が続く限り金融政策が景気引き締め的に働くため、事実上2%のインフレ実現を遠のかせる政策運営が続いていると位置づけられる。
さらに言うまでもないが、2019年10月から予定通り消費増税が実現すれば、主要国の中ではほぼ唯一日本だけが成長率を押し下げる政策をさらに強める状況になる。安倍政権の政策転換がなければ、唯一緊縮を続ける日本経済の停滞は避けられず、日本株が世界の株式市場の中でアンダーパフォームし続けるだろう。
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