テレビで生き残るのは2~3社 氏家齊一郎・日本テレビ放送網取締役会議長に聞く
――インターネットの台頭も大きな構造変化ではないですか。
それは違う。多くの人が誤解しているが、インターネットはしょせんハード。問題は、そこにどういうソフトを流すか、だ。たとえばニュース番組。そのソフトの価値を決めるのは、ニュースを集めて選択して価値判断して流す主体が誰なのか、ということ。読売でいえば150年新聞をつくってきた信用であり、その信用と一緒になって55年番組をつくってきた日本テレビの信用。これを直ちにやろうと思っても、何兆円かけたってできない。もし、ブログに書いてある内容をそのまま信じてしまうような人がいるなら、よほど客観的な考え方ができない人だろう。
インターネットはテレビ放送のように1000万人単位の人が一斉に同じものを見る、という場合には適していない。サーバーを大量に使えば計算上はできるとしても、そんなことしたら高くついてどうしようもないだろう。アーカイブを見るのには向いているかもしれないが、大勢が集中するものは絶対ダメ。パンクしてしまう。
テレビ放送がインターネットに食われると言う人がまだいるけれど、まったくのナンセンスだ。インターネットは無料ではなくインフラの部分にものすごくおカネがかかっており、誰かがそれを負担していることもよく考えなければいけない。
重要なのは、どれだけよい番組をつくれるか
――今、テレビには2兆円の広告が集まっているのに対し、ネットは6000億円です。かつてテレビが新聞を抜いたように、ネットがテレビを抜くのも時間の問題では。
それはありえない。今、インターネット広告というのは、アメリカでもどんどん衰退している。中身を見ても、検索ワード連動という形で、純粋広告からどちらかというと販売プロモーションのほうに変わっている。今でも、テレビ放送が広告の需要を何かに奪われているとは思っていない。需要そのものが減っているというのが実態だ。
こうした中で重要なのは、本業回帰だ。これまで、日本テレビもインターネットだ何だといろんなものをやってきている。全部赤字だけれども。しかし、本業をどうやるか、どれだけよい番組をつくれるか。これを徹底的にやらなくちゃいけない。
――放送だけでなく音楽、映画などさまざまなエンターテインメント事業を強化していく、という戦略を進めているテレビ局もあります。
ウチもそれはやっている。いろんなことをやるんだが、結局それは決定的な力になりえない。
映画でいえば去年、一昨年と当たったのは、みんなテレビ系の映画でしょう。いちばん当たったのは、日本テレビ系の『崖の上のポニョ』だけれども、安定的な収入を期待できるものではない。よくてもプラスアルファ程度。通販をやってみたり、インターネットに有料番組を流してみたりしても、経営基盤をきちんとまとめるような力はなっていない。だからこそ本業の力を高めることが重要になる。
――どのチャンネルを見ても同じような番組をやっているように見えてしまう。制作費を削減するために、スタジオ撮りのバラエティ番組ばかりが目立っています。
確かに、今はどこを見ても同じようなことをやっている。これは13歳から49歳までのコア、しかもF1・F2という女性を対象にした番組作りをするから。スポンサーは、そこに対して遡及力がどれだけあるかで広告を決めるため、どうしてもそこの人たちにおもねるものをつくる。
娯楽番組であるかぎり、それはそれでいい。ただ、そんなことばかりやっていたら飽きられる。その危機感を現場は持っている。