さらに言えば、「生涯100年時代」というキャッチフレーズにのって、働けるかぎりは働こうとする声も大きくなっています。都市部にある会社で働き、郊外に住む人々にとって「奴隷船乗り放題時代」の到来と言えるでしょう。
社会学者の重要な仕事の1つに、気の利いた皮肉を言うことがあります。社会で自明視されている〈現実〉に、多様な側面があることを見せるためです。
この場合であれば、満員電車の「異常さ」に気づいてもらうことが目的であり、決して日々まじめに働く人々をコケにしたいわけではありません。残念ながら、こうした気の利いた皮肉に対して、「バカにしているのか!」と反射的に怒ったり、否定したり人が少なくないのが現状です。
満員電車が「異常」であることを認められれば、次は、混雑解消に向けた議論を始められます。しかし、今の「普通」に固執し、「異常」という指摘を受け入れられなければ、満員電車はいつまでも「奴隷船並み」の密度で運行され続けるわけです。
相談者さんの話に戻すと、東京一極集中による満員電車の問題は、郊外に暮らし、そこに仕事もあれば個人レベルでは解決できます。きっと生活にも余裕がでてくるはずです。その点で相談者さんはとても恵まれています。
本業の勤務時間、もしくは残業を減らして副業をすれば、収入自体が減る可能性があり、 それで家族は心配されているのかと想像しますが、単に本業の収入の面だけではなく、従来の「普通」の男性の働き方とは大きく異なることも、不安の理由としてあることでしょう。
日本は「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業を前提として回る社会です。キャリアの継続に際して、女性が結婚、妊娠、そして出産と次々に「壁」にぶつかるのに対して、男性は定年退職するまで働き続けるのが「普通」です。
1973年までの高度成長期は、サラリーマンと主婦の組み合わせが主流でしたが、1991年までの安定成長期は、男性だけの稼ぎでは食べていけなくなり、パートをする女性が増えました。そして、バブル崩壊以降から今日に至るまでの低成長期には、男性の給料がさらに低くなったので、結婚後もフルタイムで働く女性が多くなっています。
働き方にとらわれず自分の希望を伝えて話し合うべき
どの時代でも共通して既婚の男性に期待されているのは、定年までの間は絶対に働き続けることです。共働きは増えていますが、男女間ではフルタイムでさえ10:7程度の賃金格差があるので、経済的な大黒柱が途中で仕事を投げ出してしまえば、現代でも家族全体が生活できなくなってしまいます。職業の領域における女性差別が、男性の生き方をも大きく制限していることがわかります。
住まいの問題と同様に、性別役割分業を前提とした社会が変わらなくても、奥様に家族の生活を支えられる水準の安定した収入があれば、個々の家庭レベルでは男性に課せられた「普通」の働き方にとらわれる必要はなく、相談者さんが副業にチャレンジすることも可能です。
もしそうであれば、家族や奥様のご両親に反対されても、しっかり自分の希望を伝えて、話し合うべきです。ただし、大黒柱を交代できるだけの経済力が奥様にない場合、女性差別という社会問題の結果なわけですから、それを責めるのは酷だと言えます。お互いに歩み寄りが必要です。
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