さらに、行政が現場の運営までやるのは難しいので、外郭団体も整備しました。財団法人豊島区コミュニティ振興会社と豊島区街づくり公社を統合し、「財団法人としま未来文化財団」として再出発してもらったのです。ここが第一線で企画を立案し、文化イベントを運営しています。
当初は「文化では、ごはんが食べられないぞ」と、周囲から袋だたきに遭いましたし、職員もいい顔をしませんでしたね。文化事業というのは財政が厳しくなると先に予算が削られるものなので、私が就任する前は文化事業の予算はゼロだった。それでも、少しずつ予算を増やして、住民や職員の間にも徐々に文化の意識が浸透していきました。
区長室は、チケットブース
――とはいえ、財政難の中では、文化施設を建設するにしても限度があったのではないでしょうか。
確かに悔しいけど、立派な建物をつくることは、おカネがないからできませんでした。行政が大きな資金を出した事業は、サンシャインの近くにある舞台芸術交流センター「あうるすぽっと」ぐらい。
文化芸術創造の拠点として「にしすがも創造舎」というものを設置したのですが、これは学校の跡地とその校舎を利用したものです。公園や道路などオープンスペースを活用しており、イベントは区民の力も借りながら仕掛けてきました。
1989年から25回続いている「池袋演劇祭」は今や恒例となり、アルバイトをしながら演劇活動を続けている方を中心に、40団体も参加してくださっています。地味だけど、みんなが演劇を楽しむイベントです。
ただ、大賞でも報償金は30万円しか出ないんですよ。このほど行われた表彰式でも、「な~んだ、たったの3万円か」といった声が受賞者からあがったほどです。確かに、ほかの演劇の祭典に比べたら少ないのですが、おカネではなくて名誉になるような、今後のみなさんの活動の糧になるような形であってほしいな、と思っています。
――チケット販売には、区役所もかかわっているのですか?今、お邪魔している応接の入り口にも、チケットが置いてありました。
演劇やコンサートなどのチケット販売は、基本的には、先ほどの「未来文化財団」が担当していますが、できるだけ区長である私自身も、チケットを売りさばこうと頑張っています。自ら電話をかけてチケットを売るなど、区長室は一年中、まるでチケット売り場。「この人を押せば何枚売れる」など、マル秘ノウハウも蓄積しています(笑)。
イベントでいちばん大変なのは、なんといっても、お客さんを集めることです。すばらしい演劇、脚本などすべてが整っていたとしても、観客が入っていないと達成感がない。ところが、区長がセールスマンとなって販促をかけているうちに、「区長、チケットありますか」と声をかけられることが増えてきました。普段は演劇や音楽に接してなかった人たちが、関心を持ってくれるようになったのです。そういった観客の中には、自ら文化の担い手になる人も出てきています。
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