その昔、「江戸前」うなぎは「ヘド前」だった! 「続編もの」に込められた日本人のパロディー精神

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『二人比丘尼色懺悔』『多情多恨』『不言不語』などの傑作を次々と発表。明治30年からは畢生の大長編『金色夜叉』の連載を開始するのだが、若くして病没したため『金色夜叉』は未完に終わってしまう。

しかし、熱海の海岸で主人公の貫一が自分を裏切ったお宮を蹴り倒すという『金色夜叉』で最も有名な場面は、30年くらい前までアニメにもしばしばパロディーギャグとして取り上げられ、子供でも知っているものであった。

金色夜叉にはタネ本あり

文語と口語の華麗なチャンポン(雅俗折衷)である彼の文体は現代読者には馴染みにくく、正直なところ現在広く読まれているとはいえない。その一方で、紅葉研究は最近かなり熱い。気鋭の女流学者・堀啓子が紅葉の傑作『不言不語』や『金色夜叉』がバーサ・クレー原作の小説であることを発見したニュースは、明治文学ファンに大きな反響を呼び起こした。

金色夜叉の種本

そしてその反響を受け、『金色夜叉』の原作とされる『女より弱き者』の翻訳が刊行された。『不言不語』の原作である『二つの罪の間』の翻訳と研究を収めた『和装のヴィクトリア文学』も刊行され、紅葉研究家をうならせた。

更には、『二つの罪の間』を探偵小説としての視点から更に深く読み説いた瞠目すべき論考が探偵小説作家の側からもなされている(小森健太郎『英文学の地下水脈』所収の「語られざるバーサ・M・クレーのミステリ」)。

本題の『鬼桃太郎』に戻る。その紅葉が活動の最初期である明治24年、博文館『幼年文学叢書』シリーズのトップバッターとして執筆したのが、『鬼桃太郎』なのである。

挿絵を眺めつつ、さっと話の筋を見ておこう。

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この桃に入れるのか・・・・

桃太郎によって多数の仲間が殺され、宝物を奪われてしまった鬼が島では、深く恨みを抱いた王鬼が「桃太郎を討ち取った者を新しい王とする」とのお触れを出していた。

我こそはと思わない者はなかったが、桃太郎一派の手並みを知っているため、なかなかそれを実行に移せる気骨ある鬼は現れなかった。

一方、城壁を守る立場にありながら、桃太郎の襲撃を食い止めきれず、その咎で官職を解かれて、山奥に住んでいた鬼夫婦がいた。この夫婦が「なにとぞ名誉挽回を」と願をかけたところ、その甲斐があってか、妻鬼は川を流れてきた大きな苦桃(にがもも)を拾う。桃からは、鬼夫婦さえ震え上がるほど恐ろしい青鬼が現れ、鬼夫婦は「苦桃太郎」と名付ける。

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