狸と猟師は、川魚料理屋に、ウサギの引き渡しを要求する。しかし、これをどら息子が阻止しようとしてくれた。この姿を見たウサギは、最早これまでと観念して切腹する。そして自ら胆をどら息子に手渡す。
息絶え絶えのウサギは、狸によって、さらに身体を真っ二つにされてしまうのであった。すると上半身が「ウ」、下半身が「サギ」になり、飛んでいく(ウサギが二つに分かれてウ+サギというベタギャグ)。
その後、ウサギをかくまった川魚料理屋が経営危機に陥った。すると、どこからともなくウとサギが飛んできては、ウナギやドジョウを吐き出してくれた。そのお蔭で経営が続けられた。
ウやサギが運んでくれたウナギを「反吐前(ヘドマエ)ウナギ」として大々的に売り出したが、「ヘド前」ではあんまり なので、「江戸前うなぎ」と名を改めて売り出した。これが今の江戸前うなぎの発祥である。
ウサギの胆を主の息子に渡したどら息子は出世して、侍となる。一方、復讐の本懐を遂げた子狸は、猟師ともども、狐の子供にあだ討ちされてしまうのであった。
このように、とぼけたユーモア小説ではあっても、緻密かつ大量のダジャレやギャグが埋め込まれているのが特徴である。
はじめてこの作品を読んだときには、「ウ+サギ」や「ヘド前→江戸前」などのギャグに大きな衝撃を受けた。全編にみなぎる喜三次の熱きダジャレ精神は、実に感動的である。
尾崎紅葉が描いた鬼の復讐劇
そうそう。この連載(稀珍快著)はこれまで、「大物作家のトンデモ作品」というテーマで続けてきたんだった。「多くの人が知っている大物を出してほしい」「あまり脱線しないようにしてほしい」と、山田編集長に耳にタコができるほど注意されていたのを思い出した!
大丈夫です。ここから、大物作家が登場します。
明治の大文豪・尾崎紅葉が描いた『鬼桃太郎』(明治24年)は、誰もが知っている桃太郎の続編パロディーなのだ。
紅葉といえば、明治文壇で幸田露伴と人気を分け合い、日本文学史上に「紅露の時代」を現出せしめた大立者として知られる。井原西鶴を中心とした近世文学への素養と、原書で大量に読みまくった海外大衆小説のネタや話法をベースに、江戸文学の延長に過ぎなかった日本文学に新風を吹き込んだ最初の偉人の一人であった。
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