出生前診断がもう抑制できる段階じゃない理由 砂の堤防はすぐ壊れたが一歩は踏み出せた

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同じくNIPTコンソーシアムを創設した医師の1人である関沢明彦さん(昭和大学医学部産婦人科学講座教授)も、佐村さんとまったく同様で、この5年間は、技術革新が本格化する時代への「助走」として意義があったと思う、と言った。

「NIPTコンソーシアムは、この5年半で約6万5000人の方に新型出生前診断を提供してきましたが、何件の検査を行ってその転帰(病気が経過してほかの状態になること)が、どうなったかを定期的に記者会見で明らかにしてきました。それによって、たくさんの人に、この事実について考えてもらう機会が提供できたと思います」

検査開始の初年度は、ダウン症候群の判明後に妊娠継続を決めた人が1人しか出なかったので多くの人が衝撃を感じたことが印象に強く残っている。しかし、この数字は次第に増え、5年間で見ると、10人に1人程度の割合となった。

初めてガラス張りにされた出生前診断

そして、そもそも新型出生前検査を受ける人自体が全体から見るとごくわずかだということもよく理解されるようになり、女性たちの選択はそれぞれだということが知られていった。いずれにせよ、新型出生前診断は、初めてガラス張りにされた出生前診断だった。

検査前後の説明の大切さが強調されたり、検査前の解説資料が関沢さんたち医師によって整備されたりしたのも新型出生前診断の特徴である。

「この5年間に、新型出生前診断は、『ちゃんと親子が理解し納得して受けるのであれば容認される』という理解が社会の中で得られたのではないでしょうか。個人的には、そう思っているのですが」

出生前診断は進歩を止めることはなく、まもなく、もっと身近なものになるだろう。新型出生前診断が始まったときに作られた堤防は砂の堤防にすぎず、すぐ壊れてしまった。でも、砂の堤防を作って、それが波に流れていく間に一歩を踏み出すことができたのなら、それ自体とても有意義だった。

これから産み育てる世代を大切にしたい。彼らのために、今、道を開いていってほしいと思う。

河合 蘭 出産ジャーナリスト

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かわい らん / Ran Kawai

出産ジャーナリスト。1959年東京都生まれ。カメラマンとして活動後、1986年より出産に関する執筆活動を開始。東京医科歯科大学、聖路加国際大学大学院等の非常勤講師も務める。著書に『未妊―「産む」と決められない』(NHK出版)、『卵子老化の真実』(文春新書)など多数。2016年『出生前診断』(朝日新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。

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