「その当時、私たちは検査がやがて広がることは避けられないと思っていました。ただ、あのときは、検査会社がまだ1社しかなかったので、私たちとその会社の間で日本医学会の『母体血を用いた出生前遺伝学的検査』施設認定・登録部会が認定する施設からしか検査を受託しないということができたのです。ところが、今はもう、世界中で何十社という検査会社が新型出生前検査をやっています」
そうした企業が次々に日本にやってきて、採血をしてくれるクリニックを見つけては営業活動を展開しているという。対象は、出生前診断のルールを定める日本産科婦人科学会には所属していない内科医、皮膚科医、小児科医、精神科医、形成外科医などが主だ。
「それでも、始めてから数年は限定的に行われると予想したので、その間に、検査を受けた人の結果や感想を分析し、それをふまえて、数年以内に日本産科婦人科学会が認定基準を見直す予定と聞いていました。ところが、臨床研究の成果が報告集にまとまったあともなかなか指針を見直すことができず、2016年あたりから非認可施設での検査が大変な数になっていきました」
そして佐村さんは、今後は、検査が拡大する、もっと大きな局面がやってくるという。
「価格が大幅に下がる」
「価格が、大幅に下がると予測されます。初期の新型出生前診断は、解析の前に使う試薬が、開発した会社に特許料を払わなければならなかった。今はそれを使わない方法ができて、各社値下げの競争をしています」
新型出生前診断は、今、日本では20万円前後だが、海外ではすでに5万円を切る検査も出てきたという。そうなれば、利潤追求のために新型出生前診断をやっていた非認可施設はこの検査をやめてしまい、出生前診断は産婦人科医が中心となって行う本来の形になる可能性が高いと佐村さんは考えている。
世界はこんなふうに大変な速度で動いていく。では、NIPTコンソーシアムの臨床研究や、今はむなしくなった実施施設の規制とは、いったい何だったのか? 結局、私たちに何を残したのか? そう聞くと、佐村医師は一瞬考えてから、こう言った。
「それは、みんなが考える時間になったということでしょう。出生前診断が、社会の中で、語れるものになった。賛成の人もいて、反対の人もいることが、みんなわかりました。そして、ダウン症候群や18トリソミー、13トリソミーについてもどんな病気なのか知らないまま怖いと思っていた人も、知って気持ちが変わることもあるとわかりました。検査は隠したり、受けにくくしたりしなくても、妊婦さんが知ったうえでチョイスすることができるものなんだということが、道半ばではありますが、だんだんわかってきたのではないでしょうか」
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