一方、実際の現場では各種検査が事実上、自由に行われている。日本産科婦人科学会をはじめとする関連学会は出生前診断実施にあたっての条件を決めているものの、そこに法的効力はない。
学術団体による規制が非力なことがまざまざと示されたのは、血液検査だけでダウン症などを検出する「新型出生前検査」の非認可施設問題だ。安全で、かつ精度が高い、この新しい検査の注目度は非常に高かったため、まずは臨床研究として開始されることになった。そして厳しい基準を満たした施設のみが臨床試験に参加し、検査を行えるものとした。
意に介さない非認可施設が多数できた
ところが、結果的には、認定制度の存在など意に介さない非認可施設が多数できてしまった。現在、新型出生前検査の約半数はそうした施設で行われていると推測されている。これらの多くは、ネットで予約し、1回行って採血をすれば結果が郵送されるだけで相談の体制はない。
各学会も、現状でよいと思っているわけではない。今春、日本産科婦人科学会は、新型出生前診断の実施施設認定基準を緩和し、実施施設を増やすことで、非認可施設に流れる人を減らす新指針案を公開した。新案では、認定施設を「基幹施設」と「連携施設」にレベル分けして、連携施設は、今までいることが必須とされていた臨床遺伝専門医の存在を「原則とする」という表現にし、一定の研修を受けた産婦人科がいて、基幹施設と連携が取れていれば認めるとした。
これに対して、遺伝の専門家や小児科医、出生前診断の拡大を警戒する団体は異を唱える声明を次々に発表し、マスコミも警戒ムードだが、現場では、すでに新型出生前診断は、市場原理により、抑制できる段階ではないという声も高い。
2013年、新型出生前診断の検査を臨床研究として日本で開始した「NIPTコンソーシアム」のスターティングメンバーの一人・佐村修さん(東京慈恵会医科大学産婦人科准教授)は5年前の検査開始当時をふり返って言う。
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