日本企業が「知財」の意味を再考すべき理由 データ集積・分析は「経営資産」になりうる
本書の中でも紹介している例ですが、「ある個人が自動車でドライブするときのデータ」といった場合でも、関わり方によって8人の登場人物がいます。運転者本人や自動車メーカーのほかに、各部品やセンサーのメーカー、位置情報を提供する側と提供される側……などです。
データそのものは、ただ事実を記録したものでしかありません。それをどう活かせるかは、どう分析するかにかかっています。たった1つのデータでも、そこから得られる情報は多面的で、分析の切り口はいくらでもありえるのです。
データを経営資産として使うときに考えてほしい、もう1つの重要な点が、他社と連携することです。例えば商品開発や販売などを他社と連携することで、より膨大なデータを集めることができます。分析も協働で行えば、より多面的な分析が可能です。
知財とは「強み」であり、「自社らしさ」も知財である
ただし、他社とデータを共有すると、似たような商品や戦略にたどり着いてしまう可能性も大いにあります。それでは独自性が失われ、結果的に、競争力を失ってしまうことにもなりかねません。データは共有しつつも、その先に「自社らしさ」をどう付加していくかが重要です。
実は、その「自社らしさ」もまた知財です。最初に述べたように、知財とは企業の「強み」です。企業イメージやブランド力、あるいはノウハウやネットワークを活かすことで、他社と違う自社ならではの戦略を作り上げることになります。
これは、グローバル競争で生き残っていくためにも不可欠なことです。今、世界の巨大企業の中には、一国家に匹敵する規模の企業が次々と誕生しています。その中にあって、日本企業の規模はさほど大きくなく、また、数多くの中小企業が国内だけで活動しています。
中小企業は、まだまだ輸出に踏み出せていない企業が多いのですが、その一方で、海外企業はどんどん国内に進出してきます。ぼんやりしていると、あっという間に国内シェアすら持って行かれてしまいます。1社で戦うのは難しい場合もあり、そこで協業や連携も選択肢として考えることになりますが、自社の強みを知財・経営資産として明確にしておかなければなりません。
「自社らしさ」という点で言えば、日本製品の質の高さは、現在でも世界に誇れる「日本らしさ」であり、日本企業の大きな強みです。企業が集まってブランドとして構築するなどして、「ジャパンクオリティ」を知財として積極的に活用していくことも日本企業の有効な戦略ではないかと思います。そのために日本企業間で持っている知財を互いに使い合う、パテントプールの可能性も考えておく必要があります。それについても本書で提案しています。