あるカリスマ数学教師の「変態」を育てる授業 「どうせできない…」の壁を越えさせる名人技
「神奈川御三家」と称される私立栄光学園中学高等学校に、「イモニイ」こと井本陽久さんというアラフィフの数学教師がいる。「イモニイ」の名前を出せば、「ああ、聞いたことがある!」という教育関係者は多い。その活躍は、2018年秋には週刊誌『AERA』の巻頭特集でも大きく取り上げられた。
東大合格者数では全国トップレベルの超進学校に在籍してはいるが、イモニイのチャームポイントは、大学受験指導にあるのではない。「21世紀のグローバル人材を育成する」なんてお題目はこれっぽっちも掲げていない。「イケメンすぎる数学教師」という評判も、残念ながら聞かない。
それでもイモニイの授業には、全国の教員が見学に来る。学校の先生だけではない。カリスマ塾講師も、プロ家庭教師も、イモニイの授業を一目見ようとやってくる。どんな授業をしているのか。拙著『いま、ここで輝く。』で詳しく取り上げたイモニイの授業の実況中継を、一部転載する。
手を動かさないと「頭のよさ」がマイナスに働く
「はい。ちょっとパズルやめて。残り時間で『試行錯GO!』をやります」
「オー!」とか「イェーイ!」とか、歓声が起こる。生徒たちから人気の活動らしい。
「今日の問題は簡単です。『立方体をつくろう』です。ただし、幅が『1』の長方形からつくってください。1センチじゃなくていいよ。幅が『1』の長方形から、一辺の長さが『1』の立方体をつくってください」
「先生! のりしろはありですか?」
「なしです。折るのみです。折るだけでつくってほしいんだけど、折る前に、幅『1』の長方形がどれくらいの長さがあればいいかちょっと考えてみてください。長方形のここの辺の長さが『1』に対して、もう1辺はどれだけの長さがあれば折りたたんで立方体ができる?」
「8!」
「オマエたちのすごいところは、頭の中で考えて、頭の中で結論が出せること。つまり、実際に作業をしなくても予想できる。それはすごい。でもね。一方で、つくってみないと本当はわからないってことがあるわけよ。例えば、オレのいちばん初めの授業でやったでしょ」
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