人間中心のデンマーク流イノベーションとは? 格差助長の「シリコンバレーモデル」は限界だ

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ベイソン:それに対して私たちDDCは、「組織や人に対して力を与えることが重要で、それがよりよい社会を作っていく」と考えています。女性や家族、キャリア、環境への配慮と富の創出の間でバランスをとることがとても重要で、それがあって初めてよりよい社会、人に貢献できると考えています。

多摩大学大学院教授の紺野登氏「北欧のイノベーションは社会のための豊かさや、精神的豊かさを志向するということなのですね」(撮影:今井康一)

その点が、シリコンバレーとの大きな違いだと思います。短い間に一部の巨大化したハイテク企業が誕生し、さまざまなところで寡占化しています。その結果、格差を助長しているシリコンバレーのシステムは限界に近づいていると思います。

紺野:確かにGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)といった、シリコンバレーから出現したユニコーンと言われるテック・スタートアップは現在の格差を生み出しています。

それに対して、北欧のイノベーションはむしろその反対で、社会のための豊かさや、精神的豊かさを志向するイノベーションということですね。シリコンバレーと北欧は単に異なったものというよりも、北欧モデルが次世代のイノベーションだという理解でよろしいですか。

30年先を見越した社会作りができるかが問われる

ベイソン:おっしゃる通り、次の世代を意識した戦略、とくに30年先を見越した社会作りが重要なポイントになると考えています。

イノベーションに関してどういうモデルなら、ビジネスにとっても社会にとっても有効なのか。どういう活動をすれば、本当の意味で協働につながっていくのか。そして、イノベーションというときに政府、社会、民間のそれぞれの役割を長期的に考えていくこと。それと、グローバルと同じくらい、ローカルも重要だと考えています。

テクノロジーが私たちの生活にどのような影響をもたらすのか。それは、多くの人にとって生きるか、死ぬかの問題にもつながっていくことだからです。これは、決して誇張ではないと思います。人にはそれぞれさまざまなパラメーター(価値観)があると思いますが、包括的な枠組みを作っていきたい。そして、デザインによるイノベーションをより広範な視点を持って考えていきたいと思っています。

今度、アメリカのオースティンで市民と対話の場を持つことになっています(先端テクノロジー・イベント「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」)。そこでの重要なテーマは、「ハイテク巨大企業がどのような歪みを市民にもたらしているのか」です。やはり、シリコンバレー流がこのまま続くと、社会そのものが疲弊してしまう。そういうことを未然に防いでいきたいと思っています。そういう意味で、北欧、デンマークモデルはシリコンバレーに代わるモデルだと思います。

紺野:デザイン政策についてもう少し具体的にお聞かせください。DDCはかつてデンマーク製プロダクトの振興機関だったのが、ベイソンさんの時代になって、モノではなくイノベーションを促進する組織に変貌しました。イノベーションとデザインを結びつける政策転換をした背景と、具体的なケースについて要点を教えてください。

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