人間中心のデンマーク流イノベーションとは? 格差助長の「シリコンバレーモデル」は限界だ
ベイソン:デザインというのは、そもそも人間中心でなければならない。この考え方は、いま世界中で広まりつつありますが、まだまだ発展途上にあります。私たちは従来のモノのデザインだけでなく、人間中心の仕組みのデザインを促していくつもりです。
DDCのデザインイノベーションには、5つの役割があります。1つはデザインによるイノベーションを行う人々のリーダーシップを育成していくこと。2つ目が企業の経営者に対してトレーニングをきちんとしていくこと。これはデンマークに限らず、海外にも展開していきたいと考えています。
3つ目はそれを進めていくための方法論を、企業や政府の方々にも学んでもらうこと。4つ目はデザインの価値についてブランディングしていくことです。そして最後の5つ目は政策を通じてデザインによるイノベーションを進めていくことです。
すでにビジネススクールで5日間の新しいコースもスタートしました。デンマーク政府が資金を出し、100以上の中小の企業の方に集まってもらい、デジタル・デザインスプリント(デザイン思考をベースにした市場導入プロセス)実践プログラムもスタートしています。
事例として、建設業界の廃棄物を削減、再利用、リサイクルする新しいビジネスモデルを競うイノベーションチャレンジもスタートしました。このプロジェクトの目的は、今日の建設部門で発生する大量の無駄や資源浪費などの課題に対する新しい解決策を特定し、開発、浸透させるためのアイデアの交換や国際的な協力を、サーキュラーエコノミー(循環型経済)構築のために促進することです。
実際、ここでは、木材の再利用、新素材開発、破棄物を再利用する建築モジュールなどが提案されています。
世界経済フォーラムでは、今後の組織的戦略であるアジャイル(素早い改善を繰り返し、よりよいものを開発運用していくこと)なプロジェクトを、政府や企業の方々に実際に取り組んでもらう提案をしています。新しいテクノロジーが生まれたことで、それに対する規制の圧力も生まれるため、これも興味深い活動だと考えています。
デザインの観点はモノから人へ転換している
紺野:なるほど。そうした活動がDDCの役割なのですね。日本にもデザイン政策があり、私もグッドデザイン賞の審査員をしたこともあります。一部にはデザイン経営やビジネスモデルのデザインを評価する動きもありましたが、まだモノのデザイン寄りです。
今後の変化の原動力はモノの価値から人間的価値への転換、そしてデジタルです。デンマークもデジタル国家としてもフロントランナーだと思いますが、どのようにデジタル社会とデンマークデザインが関わっているのか、ポイントを紹介ください。
ベイソン:デジタルの一部技術に関して、デンマークは世界のトップクラスにあります。ただ、強調しておきたいのは、私たちはデジタル化を考える際につねに人間的視点を前面に出すことを意識していることです。
「このデジタル技術は誰のために使われるのか」「人にとってどのような便益があるのか」ということを意識し、デザインしていくことが重要だと考えています。また、先ほど建設業の省資源化の話をしましたが、そうした部分にデジタル技術を落とし込んでいくといったケースです。
私たちは、新しく「リモデル」という活動をスタートしました。これまで業界、会社ごとに研究開発、実践していたビジネスモデルをもっとオープンなものにするため、その手始めに、製造業のためのツールキットを提供していきたいと考えています。これまでの閉鎖された状態から、社会や業界全体の利益になるようにオープンなプラットフォームへとガバナンスの転換を進めていきたいと考えています。
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