精神的な「苦痛や依存」を語り合うことの効果 北海道「べてるの家」の当事者会研究とは何か

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「最近も、メンバーのカップルが赤ちゃんを授かったんです。お母さんはエイリアンやおばけの幻覚がある人で。赤ちゃんのお父さんを宇宙人だ、と言っているんでね(笑)。普通だったら、病院で薬を飲まされて、暴れたらすぐ拘束されてしまいます。でもそんな彼女も対話をすることで、落ち着くことができる。赤ちゃんは今また、べてるの関係者みんなで育てています」

第1次ベビーブームのときに、みんなで育てた子どもたちは、思春期や成人期を迎えている。それぞれが自分たちの進む道を見つけ、“普通に”成長しているという。 

親が弱くても、苦労を抱えていても、みんなで対話をすること、周囲が見守っていくことで、精神的な障害や依存の連鎖は絶たれていった。

べてるの例を自らの家族会議に取り入れたい

「十数年前にみんなで育てた子どもたちが、大きくなって何の依存症にも悩まされず大きくなった。成人してちゃんと働いたり家族を持ったりしているんです。

親はたまたま大変だったけど、いろんな大人がいて守られているとわかっていたからです。苦労の詰まった人たちが対話をすることで解決していった例をたくさん見てきました。対話には、人間が人間らしく生きるための要素が詰まっている、と思います」と向谷地教授は言う。

大きな模造紙にマジックカラーペンで、家族の問題について話し合う参加者たち。15分の制限時間を大幅に超えるほど盛り上がった(筆者撮影)

そんなべてるの当事者会議を自らの家庭に取り入れようという人も少なくない。3月末にべてるの家で開かれたイベントには、50人以上が参加。

中には登校拒否、引きこもり、発達障害、親子関係の歪みなど、さまざまな家庭の問題を抱えた人たちもいた。だが、「家族会議をしたいが糸口がつかめない」「どんなことを話せばいいかわからない」と参加者たちは口々に言う。

当日、参加者から出た悩みはざっとこんな内容だ。

・思春期の子どもとの会話の糸口がない。
・自分の思うことを家族の前でうまく言えない。
・完璧な親だと思われていて、顔色をうかがう子どもたちが悲しい。
・ケンカが多く、仲直りのきっかけがわからない。
・それぞれが自分の話したいことだけ話している。
・年老いた両親との距離感がわからない。
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