精神的な「苦痛や依存」を語り合うことの効果 北海道「べてるの家」の当事者会研究とは何か

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家族だからこそ抱える悩みが、家族だからこそうまく解決できていない。そして誰もが「家族でもっと話したい」と思い合っている姿が、見えてきた。

「最初は聞く。これが対話の基本ですね。聞くことと、自分が話したいことを分けるんですね。まずは相手の話を聞いて、そして自分の話も聞いてもらう。だんだんそれが対話になっていけばいいですよね」と向谷地教授。

家族をつくることは大きな実験

「普通の雑談や会話から話を深めていってもいいし、家の中で困ったことがあるなら『お母さん、こういう家事や人付き合いは苦手なんだよね』と話してもいい。親が自分の苦労を話せるようになれば、子どもたちは聞いてくれるし、安心して自分のことを話せるようになるはずですよ。完璧な親の前で、子どもは話などできません。家族会議をするなら、親はちゃんと情けないものだと子どもに伝えないとね(笑)」

昔ながらのスタイルで、家父長制が強い家もあるだろう。親が忙しく、あまり話せない家族もあるだろう。親が子をついコントロールしてしまう家もあるだろう。

「家族の対話なんて、最初からうまくいくわけないですよ。言葉だけでなく団欒から始めてもいい。ケンカをしたり、親が押し付けるようなことを言ってしまって失敗してもいい。少しずつどういう家族会議が自分の家族にとってベストな対話のあり方かを探っていく。そのプロセスこそが大切なのであって、楽しいんだと思います」

家族をつくることは大きな実験だ、と向谷地教授はいう。うまくいかない。苦労も多い。その苦労をどれだけほかの家族のメンバーと分け合えるか。それが家族会議の醍醐味だ。

玉居子 泰子 編集者、ライター

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たまいこ やすこ / Yasuko Tamaiko

1979年生まれ。東京外国語大学卒業後早川書房に入社。主に翻訳書籍の編集を行う。 2005年にベトナムに移住すると同時にフリーランスに。編集・翻訳・ライター業のほか企業通訳を務める。2007年帰国後もフリーで活動を続ける。テーマは、育児・教育、妊娠・出産、育児の悩み、家族のコミュニケーションなど。主な寄稿先は『AERA』、『東京人』、『クーヨン』、『FRaU』、日経DUAL、JBpress、soar-worldなど。過去の仕事一覧はこちら
 

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