「女性の事務系仕事」は令和時代に生き残れるか 「必要とされる仕事」について考える

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しかし今後は単純な事務系の仕事には自動化の流れが押し寄せ、銀行の窓口、損害保険の審査・給付、コールセンターのオペレーターなど女性の多い事務系の仕事は少なくなっていく。外国語も通訳・翻訳機が発達していくので日常会話ぐらいなら自動翻訳がカバーする。つまり、女性が現在安定的な収入を得ている仕事が少なくなるのだ。

そういうと、経済的な安定を得て生きていくためには、格差社会の上に位置する「勝ち組」男性と結婚し、養ってもらうのがいちばん「お得」ではないか、と考える女性もいるかもしれない。しかしそれは、間違いである。そうした「勝ち組」男性は数がとても少なく、圧倒的に数が多いのは非「勝ち組」の男性、そして女性である。

莫大な所得は得られなくても、この男女が失業せず、持てる経験や人間性が生きる仕事に就き、そこそこの安定した所得が得られ、お互いに支えあい、人間らしい暮らしができるようになれば、日本の多くの人の生活、もっというと令和の社会は安定する。

「人間」にしかできない仕事

金融の窓口業務は減るだろうが、融資・相談・営業などの仕事は増える。単純な会計処理は会計ソフトで早く済むかもしれないが、新しい費目をどう処理するかを考え顧客と財務戦略を相談する会計士的な仕事はなくならない。単純な「資格」や専門能力を持つだけでなく、それに何かプラスアルファを付け加えることができる女性ならいい仕事に就くことができる。

例えば、一般的なカロリー計算をしているだけでなくおいしい調理ができる管理栄養士、翻訳機や通訳機を活用し外国籍の人とも信頼関係を作り維持できる看護師さんや薬剤師さん、介護ロボットに移動は頼んでも高齢者と温かい会話ができる介護士さん、AIから情報を得て一人ひとりにふさわしいケアプランを作成するケアマネジャー、AIの教材を使いこなすコツを子どもたちに教えることができる小学校や中学校の教師、などなど。きっと仕事の中身は変わっていくだろうが、AIなどの助けを借りながら、仕事の中身も変わっていく。中でも人に関わる仕事はこれからもなくなるどころかより重要性が増していく。

これからの仕事はSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)が不可欠といわれるが、それをどのような用途にどう使うか、そこを理解して応用しなければ科学技術がどれほど高度でもビジネスにも社会の発展にも結び付かない。困っている人や問題・課題に気がつき、その「困りごと」を科学技術で改善・解決しないかと工夫する、女性もそうしたイノベーションの担い手になる力が求められる。

体力のいる仕事は機械に置き換えられ、力持ちが重宝される男性の仕事が大きく減ってきた。同じように、言われたことを言われたとおりに忍耐強く、単純な事務処理をするだけの女性の仕事はAIや自動化によって今後ますます減っていく。丁寧で従順で、忍耐強く単純作業に取り組む「女性らしい」仕事はなくなる。

一方、人とコミュニケーションができ、共感し、課題を発見し新しい提案ができる女性の仕事は減るどころか、増えていくに違いない。女性が大学などの教育の場で身に付けるべきはそうした令和時代を生き抜くことができる力であり、仕事においてもそうした力を伸ばしていくこと、それがますます求められているのではないだろうか。

坂東 眞理子 昭和女子大学総長

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ばんどう まりこ / Mariko Bando

1946年、富山県生まれ。東京大学卒業後、1969年に総理府(現内閣府)に入省。内閣広報室参事官、男女共同参画室長、埼玉県副知事、在オーストラリア連邦ブリスベン日本国総領事などを歴任。2001年、内閣府初代男女共同参画局長を務め、2003年に退官。2004年から昭和女子大学教授、2007年から同大学学長、2014年から理事長、2016年から総長を務める。著書に330万を超える大ベストセラーになった『女性の品格』ほか多数。

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