敵を友人に変える「ニューロハックス」の威力 UCLA医学部教授が教える「脳をだます」技術

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ベンジャミン・フランクリンが2期目の議員を務めていたとき、ある議員から、評判を貶めるような長い演説をされた。同じように相手を侮辱する発言をすれば短期的には効果があるかもしれないが、長い目で見ればキャリアを傷つけるものになるだろう。

とはいえ、このまま相手に批判されっぱなしにしておくわけにもいかない。どうにか敵を味方に取り込む方法はないものかと思案したフランクリンは、敵の心を変えて仲間にするために、あるテクニックを用いた。それはまさに、ニューロハックスだった。

敵を友人に変えた心理的トリック

その議員が希少本を所有しているのを自慢にしていることを知ったフランクリンは、手紙を書いてその本を借りたいと伝えた。気をよくした議員からすぐに本が送られてきたので、丁寧な礼状を書いた。

この小さな行為が、2人の関係を劇的に変えた。フランクリンのキャリアにも傷がつかずに済み、ライバルの心にも大きな変化が生じた。敵同士は本を貸し借りしたり、丁寧な手紙のやり取りをしたりはしない――そう認識した心が、リセットされたのだ。次の議会で顔を合わせたとき、議員の方からフランクリンに近づいてきた。

以来、2人は友人になった。友情は生涯にわたって持続した。フランクリンはこの体験から、ライバルに心理的なトリック(ニューロハックス)を仕掛けることの重要性を学んだと認めている――「一度親切に振る舞ってくれた人は、その後も進んで親切にしてくれるようになる。誰かと敵対的な関係を続けて嫌な思いをするよりも、細やかな心配りをして敵意を取り除こうとする方が、よほど有益だ」

フランクリンは議員に、自分との関係についての考えを改めるように仕向けた。フランクリンのことを敵でなく友人だと考える、新たな自己イメージを抱かせたのだ。ライバルはこの自己イメージと一致した行動をとるために、友人のフランクリンに対して親切に振る舞うようになった。

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