「近年特に需要が伸びているのが、年配のひとり暮らしや、ふたり暮らしのご夫婦といった層です。少人数なのでわざわざカレーを作る気にはならないけど、たまには食べたい。かといって安いもの、普通のものはあまり食べたくない。どうせ食べるなら、ちょっといいものや、特別なものが食べたい。そんなニーズに応える形で、レトルトカレーの多様化や高級化が近年進んできました」(斉藤氏)
これに伴って、必然的に技術面での進化も起こった。前出の中島氏はこう話す。
「これまでにはない素材や、さまざまな粘度のカレーを扱うたびに、『こんな素材がレトルトに向いている』『ここまでの粘度であれば製造ライン内の配管を滞りなく通る』といった多くの知見が蓄えられていきました。時には工場設備の一部を改良することもありました」(中島氏)
高級化で使えるスパイスの種類増えた
さらには、レトルトカレーの高級化が、あるもう1つの進化をもたらす。「レトルト臭」の改善だ。
レトルト食品は、内容物をパウチに詰めた後、殺菌のため中心温度120度・4分相当の加熱処理を行うことが食品衛生法で義務付けられている。これはレトルト殺菌とも呼ばれ、高圧釜によって120度という高温が実現する。「レトルト」は、加圧釜を表すオランダ語が語源だ。
そのレトルト殺菌で食品が高温にさらされる際に、独特の蒸れたような・こもったようなにおいが発生する。これがいわゆるレトルト臭だ。業界では“レトルト焼け”“焦げが移る”と言ったりもする。レトルト臭をあまり感じない人も多いが、逆にこのにおいによって「レトルトはまずい」と感じる人もいる。
「レトルト臭は、例えば豊かなバター感やスパイスの香りといった特定の原料の風味でにおいを包み込むマスキングという方法で、かなり改善できます。ただしそれも、使える原料が制限される低価格帯の商品では限界がありました。ところがここ数年で、原料をリッチに使える中価格帯・高価格帯の商品を増強してきたことにより、レトルト臭をあまり感じさせない商品が店頭に多く並ぶようになりました」(中島氏)
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