「樹木希林と市原悦子」一流女優のすごい共通点 2人の名女優が私たちに教えてくれたこと

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不憫でふがいない息子が山口を支えに生きている姿を見て、あえての苦言も呈する樹木。

「あなたがいなければ(息子も)働くと思うの。もうどうなったって自業自得。私もあの子も死んでいけばいいのよ」

これは多忙な山口を気遣っての言葉であり、嫌みでも皮肉でもない。そして、「おいとまを いただきますと 戸をしめて 出てゆくやうに ゆかぬなり生は」の歌に母子の姿をなぞらえる。老いた母の心遣いと達観が、山口の心に染み入る様子が印象的だ。

物語の結末は割愛するが、号泣必至だ。樹木はこの頃から「性と生と死と隣り合わせ」といった役を演じる機会が増えたように思う。樹木が演じた女たちが教えてくれたのは「欲望に正直であれ」である。

子どもがいない女の矜持

さて。市原悦子である。子どもの頃に観ていた「まんが日本昔ばなし」(1975~1994年・TBS)の声は私の鼓膜に残っている。昨年、スマホに機種変更したのだが、初めて購入したスタンプは「市原悦子の癒しボイス」。それくらい彼女の声が好き。

市原と言えば、やはり「家政婦は見た!」(1983~2008年・テレビ朝日)シリーズである。家政婦・石崎秋子が、派遣先の裕福な家庭で起きるスキャンダルやトラブルに根掘り葉掘り探りを入れ、最終的には問題を白日の下にさらすという定番モノ。実力行使で問題解決、ではないところがいいし、家族という組織のもろさに気づかせるところになんだか胸がすいた。

市原は盗み聞きと誘導尋問が得意で、ときには身銭を切ってタクシーを使って尾行もする(料金が高くて後悔もする)。毎回、セレブやエリートの人間がいかに矮小かをあぶり出していくのだが、市原の行動と心の声がまさに庶民感覚そのもの。嫌儲主義の礎を築いたフロンティア作品だったと思う。人間なんぞ裸になれば皆同じ、というのも妙に快感だった。

私が個人的に共感したのは、市原が「子どもがいない女性」を演じることが多かったからかもしれない。子どもがいない人生を選んだ女もこの世にはたくさんいるのだが、テレビドラマではあまり主体性を持って描かれない。

「家政婦は見た!」の秋子役は、夫とは離婚、子どもを産んだことはあるが2歳で亡くなり、家政婦になった設定だ。劇中、雇い主から「あんた、子どもは?」と聞かれることも多い。そのたびに毅然と自分の過去を答える市原に、じわじわとしてしまう自分がいた。

私も子どもがいない。「いません」と答えるだけでは余計なことを言われるので、「できませんでした」と会話を強制終了させるようにしてきた。そんな個人的なじわじわを、市原の姿に重ねてしまったのだ。

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