「樹木希林と市原悦子」一流女優のすごい共通点 2人の名女優が私たちに教えてくれたこと

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また、家庭内暴力が起きている家に派遣されたとき、「青少年問題には興味ない。立ち入れない」とつぶやく回もあった。大沢家政婦紹介所の所長・大沢キヌヨ(野村昭子)も子どもがいない。乱れた男女関係には興味津々でも、子どもが絡むとテンションが下がる市原と野村。「あたしら子どもがいないからねぇ」と。すごくわかる。ホント興味ないし、わからないから。

市原のエッセイ本『ひとりごと』(春秋社)を読んで知ったのだが、彼女自身も何度か流産を経験し、子どもができなかったそうだ。母親役のオファーが多かったが、あるときから「もう母親役、とくにホームドラマはやらない」と決めたという。その後の文言に痺れたので、これも転載しておく。

「やはり私は一人で生きている女性のなにかを演じたい。その人たちと握手して、連帯したい、と」

人気シリーズ「おばさんデカ 桜乙女の事件帖」(1994~2017年・フジテレビ)でも、市原は子どもがいない女刑事の役だった。夫は官能小説家で、蛭子能収が演じるというトリッキーなキャスティング。桜乙女も「家政婦は見た!」の石崎秋子同様、庶民感覚が基本で、冷蔵庫やクローゼットの中身からさまざまな推理を働かせる。

こっちは積極的に事件解決に導くのだが、ちょっとしたロマンス(同僚刑事の火野正平にキスされたり)とエロス(蛭子の官能小説を市原が朗読する)も仕込んである。市原はどの役でもよく動き、よく走る。彼女自身、「体を張って働く女像」を大切にしていたのではないか。まさに、握手して、連帯してくれたのだと思っている。

「我流」を「一流」にした2人

樹木も市原も、女優として自分なりの闘い方を築いた人だ。劣等感をバネに、「我流」を「一流」といわしめた努力と才能の人でもある。

全作品を観たわけではないが、2人が出演した作品もある。1つは、テレビドラマ「花へんろ」(1985・1986・1988年・NHK)。樹木は第1章で娘を捨てていく女遍路役、市原は第2章で元芸者の盲目の女遍路役だ。若かりし日の2人がそれぞれの持ち味を生かした役を演じている。もう1つは、映画『あん』(2015年)だ。2人とも、苦労を重ねた人生の重みを穏やかな表情で演じた。

どちらも私の好物「3ない」ではないが、一流の女優の演技は、必ず、人の心に刺さる。

吉田 潮 コラムニスト・イラストレーター

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よしだ うしお / Ushio Yoshida

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News it!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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