またキャッシュレス決済を利用することに対して消費者はさまざまな不安を持っているが、中でも、停電や通信障害などが起こった時の支払いの問題や、利用の安全性や紛失した際の懸念を多くの消費者が訴えている。現金を落としたり盗まれたりしても損失は盗まれた現金だけにとどまるのに対して、キャッシュレス決済手段では場合によっては損失額が大きく膨らむ恐れがある。
また、東日本大震災などの状況を目にすれば、いざというときにどうやって支払いをするのかという心配が生まれるのも当然である。すべてを民間に任せておくのではなく、政府が適切な規制や規格の設定、非常時の対応策の提示などに関与して、消費者の不安を解消していくことは日本でキャッシュレス決済の利用を促進することになるはずだ。
経済の発展段階で国家の主張は変わってくる
アメリカでトランプ政権が誕生してから、米中の経済摩擦が激しくなったが、アメリカが問題にしているのは、対中貿易赤字が大きいという結果だけではない。中国政府が国内企業を支援して国際競争力を高めることで輸出を促進するという、不公正な政策を行っていることが不均衡の原因だとして、批判を強めている。
中国は中央政府が民間の経済活動に深く関与し続けており、これを変える意思はないだろう。振り返ってみれば、中国の最高指導者だった鄧小平氏が1990年代に「韜光養晦(とうこうようかい)」(注1)という新たな外交方針を示したことを西側資本主義諸国は歓迎した。だが、これは、「時が来るまでは対立を避けて力を養おう」としたもので、改革開放路線とはいっても、欧米式の自由や民主主義を全面的に受け入れるという意図は、最初からなかったのではないか。
現在の貿易や国際金融のルールは欧米諸国が中心となって作り上げてきたものだ。アメリカが対中交渉で大きな問題としている知的財産権の問題にしても、昔は現在のように厳しいものではなかった。アメリカ自体も19世紀には当時の標準でみても非常に保護主義的で、そのおかげで産業が発展したという歴史がある。
多くの発展途上国は、経済を発展させていくためには、貿易や国際金融に関して政府がさまざまな介入を行うことは必要だと考えている。国際社会の中でこれを制限する厳しい条件を課されていることを、本音では不公正だと考えている。
トランプ政権は米中交渉において、中国に対し、中国からの輸入の抑制という圧力をかけて、政策を変えさせようとしている。現在のように中国から米国への輸出が、米国から中国への輸出よりもはるかに大きいという状況では、こうした圧力は効果がある。しかし、中国経済がアメリカ経済との差を縮めていき、さらにアメリカ経済の規模を凌駕するようになれば、輸入の抑制という圧力に屈するのはむしろアメリカの側となる可能性もある。
(注1)鄧小平氏自身が実際にこの言葉を使ったのかどうかははっきりしないようだ
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