広島の限界集落が奇抜な「かかし」だらけの事情 攻めすぎた観光キャンペーンに夫婦が協力

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考えてもみれば広島で牡蠣といえば世界的に有名な「安芸の宮島」があるではないか。なぜ宮島ではなく宇品にパネルを置くのか? 実は「おしい」場所に意図的にパネルを置くことで、さまざまな効果を狙ったと思われる。「顔出しんさい!広島県」担当者である広島県観光課の平野宏実さんはこう話す。

「今回のキャンペーンは各地の市や町の協力を得て行っていますが、『人が集まらなければならない観光地』のような場所ではなく、『スポットを当てたい場所』はどこなのかを市や町に聞いて、その意見をもとに設置しています」

つまり、すでに知名度を獲得し、集客が最重要課題となっている観光地はあえて避け、「さほど知られてはいないが各自治体が推していきたい『おしい』場所」に顔ハメパネルを設置し、パネルの面白さを話題にすることで知名度を上げて行く戦略をとっているのだ。これは「顔ハメパネルの特性」をよくわかっている戦略であるといえよう。

パネルの宣伝効果が高いのは希少性にある

顔ハメパネルが好きな人間なら誰しも、面白いパネルを探すことに喜びを感じているはずだ。そして、そのパネルに顔をハメに行くのにちょっとした「障壁」や「難易度」が加われば一層話題性は高まる。つまり「ちょっと大変だったけど、あのパネルを制覇しました!」という喜びとともにSNSに投稿されたパネルの拡散力はおのずと強いのではないかと思う。

「レアさ」を求めるパネル愛好家やSNS界隈の住民たちの心理を考えると、パネルによる宣伝効果はすでに有名な観光地よりも、少しニッチな場所のほうが高いと考えられるのだ。

この視点で今回の「顔出しんさい!広島県」のパネルを見ていくと、「府中市上下町のひなまつり」、「庄原市の謎の類人猿ヒバゴン」、「海田町のひまわり」、「福山城の逆さまコウモリ」など……。筆者が単に不勉強なのかもしれないが、そこまで知名度がなかったり、やや古い感じがしたりして「おしい」モノにスポットを当てているのが面白さを生んでいる感じがする。そして、そんなモノの代表格が冒頭に紹介した「上多田集楽」だろう。

「上多田集楽」の入り口にある釣りをする男性のかかし。後ろから見るとまるで人間に見える(筆者撮影)
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