日本がマレーシアに「洋菓子のW杯」で負けた理由 アジアナンバーワンの座を奪い返せるか

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2019年日本チームの作品(スコア:1万1862ポイント)(©Julien Bouvier Studio)

今年は初めて日本代表に、個人店のオーナーパティシエが選ばれた。「家族と店のスタッフの生活基盤を絶対に守った上で、やりきる覚悟でした。営業後の朝4時まで練習した時期もあります」(伊藤文明さん)

マレーシアに目を向けると「パティスリーを世界レベルに」という目標が見えてくる。

2025年に先進国入りを目指すマレーシアは、観光産業に力を入れ、2020年には外国人観光客を3000万人と見込む(2018年から16%増)。2018年にはフォーシーズンズ、バンヤンツリーなどのホテルが続々とオープンし、高級ホテルも出そろった。

「マレーシアでは、ベーカリーやスイーツ、和食やフレンチもそうですが、グローバルに通用する食のクオリティが年々向上しているのです」(マレーシア政府観光局)

グルメな外国人観光客を喜ばせるために「美味」は欠かせない。マレーシアでは、ハイレベルな菓子職人が求められている。世界大会で優勝したパティシエが在籍するペストリースクールには、学生が集まる。

また、W杯優勝は国の誇りになる。実際にこの「世界一」を、国内の主要メディアがトップニュースとして報じ、代表メンバーはテレビ番組にも引っ張りだこ。海外からのオファーも入っているという。

日本チームも「本気」

日本は21カ国の中で2位。十分すぎるほどすばらしい快挙である。しかし日本のトップパティシエたちは、ここで満足してはいない。

「ペストリー界でアジアナンバーワンを守り続けて来た日本が、30年たって初めて負けた。これがいちばん悔しい」(松島義典さん)。「日本は技術力で100点をとれている。ただし日本への期待は高く、優勝には見たこともないような斬新さが求められる」(2007〜2011年日本チーム団長・柳 正司さん)。

日本は今年、初めて代表メンバーの選出を1年前倒しにした。準備を1年早めることで、選手の意識を高め、練習時間を増やす考えだ。

代表メンバー3人は、厳しい国内予選を勝ち抜いた、日本一の精鋭である。「高い技術に加え、チームで同じ目的を達成できる協調性・精神力が求められます」(2019年日本チーム団長・五十嵐宏さん)。国内予選は3月20~21日に行われる。

日本人は1980年代からフランス菓子を探求し、世界に挑んできた。「いま同じようなパワーをマレーシアはじめアジアの国々に感じるのです」(1989年の初代代表メンバー 望月完次郎さん・帝国ホテル 東京)。

マレーシアが優勝。日本が準優勝。フランス発のこの大会で、アジア2カ国が表彰台に上がるのは史上初だ。「もう1回、勝ちにいくしかない。今はトレーニングプランをどうするかしか考えていません」。引き続きチームを率いる予定の、五十嵐宏さんは力強い。2年後を見据えて、日本も、本気だ。世界のパティシエたちのチャレンジは、もう始まっている。

市川 歩美 チョコレートジャーナリスト/ジャーナリスト

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いちかわ あゆみ / Ayumi Ichikawa

大学卒業後、民間放送局に入社、その後NHKで、長年ディレクターとして番組企画・制作に携わる。現在はチョコレートを主なテーマとするジャーナリストとして、日本国内、カカオ生産地などの各地を取材し、情報サイト、TV、ラジオなど多くのメディアで情報発信をしている。チョコレートの魅力を広く伝えるコーディネーターとしても活動。商品の監修や開発にもかかわる。

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