「死にたい」とネットに書く人に伝えたいこと 匿名で相談を行うコミュニティでは防げない

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死にたいという気持ちが言葉となってネットに吐き出された時点で、専門家とメールなどでやりとりできるように橋渡しする。自殺の名所に掲げられている「いのちの電話」の看板よりももっと手前、「ちょっともうしんどいな、もう死んじゃおうかな……」くらいの段階から差し伸べられる救いの手といえる。

2013年後半にした初期調査で効果が確認でき、2017年までの4年間で相談者数は600人を超え、約3割の人に「ポジティブな心理的効果」が見られるという。メールのやりとりの途中で急に連絡が絶えてしまった事例や、生活支援が必要な状況なのに地域の生活保護課とうまく連携がとれなかった事例などもあり、すべてが順調にいっているわけではないが、一歩先のネットと自殺の関係性に向かっているのは確かなように思う。

末木さんはこう語る。

「ネットは道具にすぎず、ネットとリアルは地続きです。そのネットに自殺リスクのシグナルが出ているなら、そこに気づいて少しでも自殺を予防する方向に道具を改良していく。いかにいい方向に持っていくかということが大事だと思うんですよ」

だから、以前からある自殺掲示板の存在を否定しないし、SNSに自殺願望を吐露することも否定しない。そのうえで、効果的と思える救いの手を添えていければいいと考えている。

大切なのは継続的にサポートしていくこと

暗中模索ながら、社会がよい方法に向かっている実感はあるという。

国内では2006年に自殺対策基本法が施行され、自殺は個人の問題ではなく社会の問題という合意形成がなされた。2016年の改正案では都道府県や市町村単位での自殺対策計画に国から交付金が出されるようになり、地域に根付いた取り組みが芽を出すようになってきている。

ネット界隈でも、多くの検索エンジンで「死にたい」と入力すれば、相談窓口が検索結果で目立つ位置に置かれるようになっているし、FacebookやTwitterなどのSNSは自殺願望や希死念慮をこぼした投稿者に相談窓口を紹介するなどの取り組みもなされている。

リアルにしろネットにしろ、ときにお節介に感じるし、空気が読めていないと思える局面もまだまだあるが、発展途上の取り組みの駄目な部分だけをあげつらっても仕方がないだろう。

「座間事件の後、『SNSやLINEを使った相談をやりましょう』という自治体がすごく増えました。その意欲はいいことだと思うんですけど、いちばん大切なのは自殺リスクに対して継続的にサポートできるように努力していくことだと思います。

ネットかリアルかではなく、流行に乗るか乗らないかではなく、自分たちができる最も効果的な手段をつねに選べるような柔軟性と長期的な視点が大事だと思います」と、末木さんも先を見据える。

いまあるツールがより効果的にバージョンアップするように、明るい未来を期待したい。

古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。名古屋工業大学卒業後、建設会社と葬儀会社を経て2002年から雑誌記者に転職。2010年からデジタル遺品や故人のサイトの追跡している。著書に『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(伊勢田篤史との共著/日本加除出版)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)、『故人サイト』(社会評論社)など。
X:https://x.com/yskfuruta
 

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