「死にたい」とネットに書く人に伝えたいこと 匿名で相談を行うコミュニティでは防げない

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

スクリーニング調査では、まず20~40代のモニター74万人に予備アンケートを配布して10万8000人の回答を取得。そのなかで、ネットを通して自殺願望を誰かに打ち明けたり心の問題を相談したりしたと回答した4000人強と、そう答えなかったうちのランダムな4000人を選び出し、6週間隔てた2回の本調査に協力してもらっている。

末木新(すえき はじめ)さん。自殺や自殺予防に関する研究を専門とし、和光大学 現代人間学部 心理教育学科 准教授を務めている(筆者撮影)

この6週間の間に前者の集団の自殺リスクが有意に下がっているという数値が出れば、ネット上にある自殺系サイトは自殺願望を抑える効果があると客観的にいえることになる。

ところが、結果は真逆だった。洗い出された数値は、自殺関連のネットを利用していると自殺念慮や抑うつ、不安感などが増加し、絶望感や孤独感には変化が見られないことを示していた。また、死にたいという気持ちが高まるとネット利用量が増える、という傾向も読み取れたという。

「なかなか受け入れられなくて、追跡期間を3カ月に変えて再調査したり、モニターの母集団を変えるために別の調査会社に頼んだりもしましたが、結果はほぼ同じでした。後に2016年にドイツでも同種の調査を実施したという論文も読みましたが、その結果もまるっきり同じでした」と末木さんは振り返る。

そうして冒頭の一節につながる。

どうやら、ネットで自殺方法を探したり、匿名の誰かに相談したりしても、状況は好転せずにむしろ悪化してしまうことが多いらしい。個別のケースではよい結果に結びつくこともあるが、全体で見るとどうもそうではないようだ。

やはりインターネットは自殺を防げるかもしれない

ただしそれは、1人での検索活動を含めて匿名の閉じたコミュニティー内でやりとりしたりする場合に限るのかもしれない。死にたい気持ちが増すとネットの利用量が増える。それなら、そのシグナルを察知して、プロの相談員につなげる仕組みを作ったら、インターネットはやはり自殺を防げるかもしれない――。『自殺対策の新しい形』の第2章以降は、そうした新しい視座からの研究がつづられている。

きっかけは「夜回り2.0」という活動をしている伊藤次郎さん(現・NPO法人OVA代表)との出会いだった。

夜回り2.0は「自殺方法」や「練炭」「硫化水素」といった自殺願望と結びつきの強い検索ワードに連動して、プロの相談窓口につながる広告ページを表示するという取り組みだ。

NPO法人OVAが実施している「夜回り2.0」。Googleアドセンス枠を使って、検索者と悩み相談の専門団体をつなげている。画像はOVAサイト(https://ova-japan.org/)より
次ページ専門家とメールなどでやりとりできるように橋渡しする
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事