最後の夏に向けコンディションを高めた飯田に、佐々木は「常総の投手の条件」を説いた。
ひとつは、両サイドに変化する球種を持つことだ。スライダーを武器にする飯田は右打者の内角に食い込むツーシームを身に付け、投球の幅を広げた。さらに2通りの牽制の方法を覚えさせ、「相手バッターより強いハートを持て」と繰り返した。常総の投手はこれらの条件をクリアして、初めて公式戦のマウンドに立つことができる。
心身ともにレベルアップした飯田は2013年夏の甲子園で、見事な投球を見せた。初戦は強打の北照相手に完封勝利を収め、続く2試合はともに1失点で完投勝利を飾る。準々決勝の前橋育英戦では2点リードの9回まで0点に抑えたが、最終回を前にした投球練習で右太ももがつった。「もう1度行きたい」という本人の意思を尊重して続投させたものの、先頭打者に2球投げた後に今度は左太ももがつり、降板する。チームは延長戦の末に敗れたが、飯田は4試合の投球が評価され、高校日本代表に選ばれた。
「プロや大学が欲しがる人材作り」
その飯田を“女房役”として支えたのが、今秋のドラフトで楽天に2位指名された内田靖人だった。高校通算37本塁打の長打力を誇り、守っては捕手とサードを務める。9月の18Uワールドカップでは高校日本代表の4番を任された。
内田の成長を引き出したのが、佐々木の「プロや大学が欲しがる人材作り」という考え方だ。
プロの世界を見ても「打てる捕手」は少なく、佐々木は「スケールの大きな選手を育てたい」と思い、内田が2年生の春にサードからのコンバートを打診した。中学時代に多少の経験を持ち、遠投110mの強肩が捕手向きだと考えた。内田はその夏と秋にふくらはぎを負傷し、捕手に本格的に取り組み始めたのは12月。順調に上達し、配球を深く考えることになったことが、打撃にも好影響を与える。3年生春の甲子園では、正捕手として出場した。
内田の捕手としての評価を高めたのが、夏の甲子園の2回戦、仙台育英戦だった。5回2死1、2塁の場面で投球を受けると、座ったまま矢のような送球を2塁に投じた。プロでもなかなか目にしないようなプレーで、観客席からどよめきが起こった(動画はこちら)。
実は、このプレーが生まれた裏には佐々木のアドバイスがあった。
内田は高校2年時から打棒を発揮し、プロのスカウトが視察に訪れていた。ある練習試合でスカウトの姿を見つけた佐々木は、捕手の内田に言った。
「座ったまま投げて、肩をアピールしてみろ。暴投になって負けるような場面ならスタンドプレーになるが、点差のある状況なら相手の足を止め、リードを小さくさせる効果もある」
仙台育英戦で内田がこのプレーを行ったのは0対0の場面だったが、正確な送球を身につけていた。機動力を武器とする相手に盗塁を許さず、4対1で勝利した。
「内田が本格的に捕手を始めたのは高校2年冬。この2年半はケガもあり、順風満帆ではなかった。本人がプロに行きたいと目標を高く置き、努力した結果がドラフト2位につながった」
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