「暴走老人」になりかけた孤独男性の慟哭と絶望

「自分は何者でもない」という無力感が募った

退職後はボランティアでも……と考え、昔関わった団体に足を伸ばしたが、考え方が合わなかった。仕事を失って感じたのは、「誰もが自分をないがしろにしている」という感覚だ。現場で仕事をしている時は「それなりにきりっとしていた」。しかし、仕事を失うと、「自分は何者でもない」という無力感にさいなまれるようになった。

その焦燥感に追い打ちをかけるように腰を痛め、激痛に苦しめられた。医者からは「車いす」もありうると宣告され、不安が募る中、ゆっくりと杖を突いて歩いていると、歩行者や自転車に乗った人からは「邪魔だ」という目線や言葉をぶつけられる。「社会から排除されるべき存在なのか」と、すさまじい孤独感に襲われた。

「孤独は美徳」「孤独を楽しめ」といったあまたの孤独万歳本も手に取ってみたが、どの著者も、結局はつねに取り巻きに囲まれている有名人。「地獄のような孤独の本当の苦しみを味わったことのない人ばかり」。慰めにはならなかった。

身体が不自由になってくると、世間の冷たさが特に身に染みる。もしかしたら、悪意を持っていないのかもしれないが、すべての人が自分に敵意を持っているようにも感じてしまう。くすっとした笑いが「嘲笑」に思えた。

「クレーマーは怒りもあるが、寂しくて誰かと話したくて電話をしているところがある」。銀行の窓口で行員に話しかけている高齢者を見ると「誰も話を聞いてくれないから、聞いてくれる人がいることがうれしいのだろうな」と想像した。

「俺は〇〇商事の取締役だったんだぞ」と路上で言いがかりをつける男性、電車の中で大きなベビーカーを通路をふさぐように止め、スマホをいじり、ほかの乗客の迷惑を顧みない女性……。そんな姿を見るたびに腹が立ってたまらなくなった。「暴走老人はリスペクトされないことへの怒りが生み出している」。小さなことでもキレてしまうようになった自分に嫌悪感を覚え、自分もそんな風になってしまうのではないかと悶えた。「孤独は人を阿修羅にする」。絶望感しかなかった。

家以外の「居場所」を探そうとした

家には同じ教師をしていた年下の妻がいて、退職後は専業主夫として、料理、洗濯、掃除をこなしてきた。優しい妻がいるだけマシなのかもしれないが、それでも、家以外の「居場所」がないことが寂しく、むなしいのだ。せっかくの教師の経験を活かしたいと、ボランティアの口を探したが、個別に学校などに申し入れても、受け入れ先は見つからない。

地域のつながりを作ろうと、マンションの住人にあいさつしても、露骨に不機嫌な顔をされることも多い。マンションに、障害のある子どもを持った母親がいた。障碍者の教育にも携わった経験もあることから、「何かお手伝いすることがあったら言ってくださいね」と声を掛けたら、マンションの管理人から、知らない住人には声をかけないでほしいと注意された。

コンビニで、女性店員にサービスを褒めたら、露骨に嫌な顔をされた。ピアノを習いたいと近所で教師を探したが、男性を家に上げるのは抵抗があると断られた。

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