「暴走老人」になりかけた孤独男性の慟哭と絶望

「自分は何者でもない」という無力感が募った

どんなに歩み寄っても、拒絶される。八方ふさがりの状況で、ただただ、虚無感だけが募っていった。そんな漆黒の暗闇の中で、最近、一筋の光を見いだした。

ネット上で見つけたある曲に惹かれ、その歌い手に連絡をとってみたところ、80代のその男性が直接歌を教えてくれるというのだ。1週間に1回通い、思いっきり声を出して歌う。「生きるっていいね」などと声に出すと、活力がみなぎってくるのを感じる。「歌の力はすばらしい」。もっと練習して、高齢者施設などを回って、人を励ましたり元気づけられたらいいな、そんな夢も持ち始めた。

今のもう1つの生きがいは、かつての教え子と話すことだ。いまだに慕って連絡をくれ、相談にのることがある。ブラックな職場に勤め、疲弊しきった若者の話などにじっくりと耳を傾ける。「何か小さいことでも役に立つという感覚が生きがいになる」と感じる。腰も少しずつよくなってきた。まだ60代。できれば、誰かの何かの助けになりたい。何らかの手立てはないものかと思いをめぐらせている。

人生100年時代だからこそ支え合える社会に

孤独は「喪失」と深い関係性を持つと言われている。若さ、仕事、パートナー、健康……。老若男女を問わず、誰にでも訪れる「危機」だから、海外では、多くの人が自分の問題として捉え、高い関心を集めている。

もちろん、すべての孤独が問題なのではないし、時として、孤独に向き合い、折り合う勇気も求められるだろう。しかし、もし、その孤独が本当に胸をえぐるような痛みをもたらすものであり、それが慢性化してしまうリスクを抱えた場合、個人として忍従を強いるだけではなく、社会として、何らかの対策の方向性を見いだしていく必要があるのではないか。

地域や家族といったこれまでのセーフティーネットが崩壊し、これからは多くの人が「一人」で生きていく時代になる。一人で生きる強さを身に付けながらも、いざという時に支え合い、誰か頼れる人がいるという安心感を担保していたいものだ。

例えば、アメリカでは退職後に、自分の特性や特技に合わせて、ボランティア先をマッチングしてくれるサービスや、退職者たちの活動の受け皿となるNGO、NPOが星の数ほど存在する。

イギリスでは国を挙げて、高齢者や若者向けの孤独対策に取り組んでいる。一方で、つながりの社会資本が極めて脆弱な日本では、このままいけば、誰もが洞穴に閉じこもる「一億総孤独」社会になりかねない。人生100年時代に向けて、支え合いのあり方を真剣に議論すべき時ではないだろうか。

「寄り添う人がいるなら、求めるものがあるなら、無限にうれしく思う。それこそ共生」。中橋さんは最近、なじみの曲にこんな詩をつけて歌っている。「共に生きる」。そんな当たり前の価値観が過去のものとなるディストピアの世界は、実はそう遠くないのかもしれない。

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