円借款検討の石炭火力、反対住民が次々投獄 インドネシアで人権問題、外務省の対応は?

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しかし、JICAは「現時点で(人権状況に問題があるか否かの)確認をしておらず、判断は差し控える」(壽楽正浩・JICA東南アジア第1課主任調査役)とする。外務省は「人権状況について価値判断はしていない」(担当者)という。

JICAは現在、出力100万キロワットの大型石炭火力発電所建設の前段階に当たる設計業務について、「エンジニアリング・サービス(ES)借款」を、PLNに供与している。しかも、追加貸し付けが実施されたのは、3人が再逮捕された後の2018年9月27日だ。

国際人権デーで3人の無条件釈放を求める仲間の農民(2018年12月)(写真:インドネシア現地の市民団体より提供)

ただ、環境社会配慮ガイドラインには「プロジェクト本体に対する円借款の供与にかかる環境レビューにおいて、環境社会配慮上の要件を満たすことを確認することを可とする」との条項がある。そのためJICAは、現時点で調査は必要ないとの認識だ。

その考え方について壽楽氏は次のように説明する。

「ES借款はプロジェクト自体が経済性を含めてフィージブルか否かを確認する作業でもある。発電所本体への円借款供与を検討する際に、環境社会配慮も含めて確認するのが効率的であり、審査のステップとしても適当だとの判断がある」

壽楽氏は「現時点でインドネシア側から、発電所本体の建設に関しての円借款の要請は受けていない」としたうえで、「反対住民やNGOから指摘されている問題については、PLNに確認を求めている」と説明を続ける。

すでに周辺工事が進捗

しかし、次々と人権問題が持ち上がっている中で、「発電所本体の建設に際して、インドネシア側から円借款の要請が来たら、その時に検証すればいい」というやり方は妥当なのか。ES借款供与時に人権状況を調査・検証してはならないとの規定はない。

前出の波多江氏は「反対の声をあげただけで住民が逮捕・有罪になるような現状は、そもそも政府開発援助を適正に実施できる条件を満たしていない」と指摘する。

現在、発電所本体の工事こそ行われていないものの、PLNはアクセス道路の建設や送変電設備に関する土地造成工事を着々と進めており、反対する住民をいつでも閉め出せるようにあちこちにゲートが設けられている。

インドネシアでは、石炭火力発電所の増設そのものにも疑問が出ている。

事業予定地の境界に設置されたフェンス内の水田で田植えの準備を始める農民。遠方に見えるのはすでに稼働している発電所(2019年1月)(写真:国際環境NGO、FoE Japanより提供)

硫黄酸化物やばいじんなど有害物質の排出量の多さが、周辺住民から強い反発を招いている。また2017年9月には、インドネシアの財務相がPLNの事業計画の見直しを求める書簡をエネルギー鉱物資源相に送付していたことが現地の報道によって判明している。国際環境保護団体グリーンピース・インドネシアのユユン・インドラディ氏は、「ジャワ島およびバリ島エリアでは電力供給の予備率が40%もあり、電力設備の過剰が問題となっている。新たな石炭火力発電所の建設は必要ない」と指摘する。

そうした中で、「大統領選の前に、発電所本体の建設に関する円借款の要請が出されるのではないか」(波多江氏)とも危惧されている。

問題山積のプロジェクトに外務省やJICAがどう判断を下すのか、注視を怠れない。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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